「適格」チェックボックスが消えた ― マネーフォワードクラウド会計の仕訳入力仕様変更と、見直すべき自動仕訳ルール
顧問先の仕訳を確認していたら、いつも使っていた「適格」チェックボックスがなくなっていました。代わりに「インボイス」欄が「適格」「80%」「70%」「50%」「30%」「控除なし」から選ぶプルダウンに変わっています。2026年7月中に実装された、マネーフォワードクラウド会計の仕訳入力画面の仕様変更です。
見た目の変更だけなら気にする必要はありませんが、今回は「なぜチェックボックスでは足りなくなったのか」を理解しておかないと、自動仕訳ルールの見直しを見落とします。この記事では、変更の背景と、顧問先・自社の設定で確認すべき点を整理します。
この記事の前提
MFクラウド会計の仕様変更内容は、MFクラウド会計の公式サポートページの記載に基づいています。税制側の経過措置スケジュール(控除割合が段階的に下がる制度)については、以前の記事「2割特例が終わる」で確認した国税庁:インボイス制度の見直しについて(令和8年度税制改正)の内容と揃えています。
何が変わったのか
旧仕様と新仕様を比較すると、変更点がはっきりします。
| 旧仕様 | 新仕様(2026年7月〜) | |
|---|---|---|
| 入力方法 | 「適格」チェックボックスのON/OFF | 「インボイス」欄のプルダウン選択 |
| 選択肢 | 適格 / 適格以外の2択 | 適格・80%・70%・50%・30%・控除なしの6択 |
| 対象画面 | 仕訳帳入力など一部 | 連携・AI-OCR・デジタルインボイス・請求書・給与からの自動仕訳、振替伝票、簡単入力、仕訳帳入力など広範囲 |
| 既存データ | ― | 「インボイス経過措置の自動入力補完」を有効にすると、既存の仕訳辞書・自動仕訳ルールを自動変換 |
チェックボックスは「適格かどうか」の二値しか表現できません。ところが仕入税額控除の経過措置は、免税事業者からの仕入れについて次のように段階的に控除割合が下がっていく制度です。
| 期間 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 〜令和8年9月30日 | 80% |
| 令和8年10月1日〜令和10年9月30日 | 70% |
| 令和10年10月1日〜令和12年9月30日 | 50% |
| 令和12年10月1日〜令和13年9月30日 | 30% |
| 令和13年10月1日〜 | 控除不可(0%) |
「適格以外」の中に80%・70%・50%・30%・0%という5段階が隠れているので、二値のチェックボックスでは仕訳に必要な情報を持たせられなくなった、というのが今回の仕様変更の背景です。
具体的な事例で見る影響
EC事業者が免税事業者のフリーランスデザイナーに月20万円(税込22万円、消費税相当額2万円)を外注しているケースで考えます。
- 旧仕様:「適格」チェックボックスをOFFにするだけで、控除割合は会計事務所側が別途Excelなどで計算し、決算時に一括調整していた
- 新仕様:仕訳入力時点で「70%」を選べば、消費税相当額2万円のうち1万4,000円がその場で仕入税額控除の対象として記録される
自動仕訳やAI-OCRからの取込でこの判定がされるようになると、月次の段階で控除額の実態に近い数字が見えるようになります。決算直前にまとめて調整する手間が減る一方、自動仕訳ルール側の設定が古いままだと、間違った割合で月次が積み上がっていくという新しいリスクも生まれます。
なぜ「普通の人」ほど間違えやすいのか
このプルダウンの怖さは、選択肢が6個に増えたこと自体ではなく、正しい選択肢を選ぶには2つの情報を頭の中で掛け合わせる必要があることです。
- その取引先が適格請求書発行事業者として登録されているか(登録済みなら「適格」一択で終わり)
- 登録されていない場合、その取引の日付が経過措置のどの期間に当たるか(80%・70%・50%・30%・控除なしのどれか)
経理担当者が月次で処理していれば取引先ごとの登録状況を把握できますが、経営者本人や事務スタッフが自分で仕訳を入力する小規模事業者では、この2つを毎回正確に判断するのは現実的ではありません。実際に起きやすい誤りは次のようなパターンです。
- 選択肢の一番上にある「適格」をそのまま選んでしまう(実際は免税事業者への支払いで、控除できるのは一部だけ)
- 「よく分からないから安全側に」と判断して「控除なし」を選んでしまい、本来控除できる分まで切り捨てる
- 令和8年10月の切り替わり前後で、取引先は同じでも割合が70%に変わっていることに気づかず、9月と同じ「80%」を選び続ける
厄介なのは、どのパターンでも仕訳入力の見た目は正常に完了することです。エラーも警告も出ないため、間違えたことに本人が気づく機会がありません。
事故を防ぐための現実的な対策
- 手入力(簡単入力・振替伝票・仕訳帳入力)が発生する場面を減らし、できるだけ連携・AI-OCR・自動仕訳ルール経由の自動判定に処理を寄せる。前述の「インボイス経過措置の自動入力補完」を有効にしておけば、取引先マスタの登録状況と取引日から割合が自動で決まるため、手入力よりも誤りが起きにくい
- 経営者・事務スタッフが自分で仕訳を打つ運用の場合は、「プルダウンで何を選ぶか」を判断させるのではなく、新規の取引先が増えたときだけ経理担当者・顧問税理士に確認する運用に変える(判断のたびに毎回選ばせない)
- 月次で、免税事業者向けの仕訳だけを抽出して控除割合の分布を目視確認する(極端に「適格」または「控除なし」に偏っていたら、誤選択が疑われる)
確認すべきこと
顧問先・自社でMFクラウド会計を使っている場合、次の3点を確認してください。
- 「インボイス経過措置の自動入力補完」が有効になっているか:「事業者」画面の設定です。有効にすると既存の仕訳辞書・自動仕訳ルールが「適格」または「適格以外」に自動変換され、取引日に応じた控除割合が自動設定されます。無効のままだと旧仕様のデータが引き継がれず、手動での見直しが必要になります
- 令和8年10月1日をまたぐ取引の日付基準:控除割合は取引日(多くの場合は仕訳の日付)で判定されます。9月末締め・10月払いの請求書など、締日と支払日がずれる取引では、どちらの日付で70%への切り替えが判定されるかを個別に確認してください
- 免税事業者かどうかの取引先マスタ登録が最新か:控除割合の自動判定は、取引先が適格請求書発行事業者かどうかの登録情報に依存します。外注先がインボイス登録した・していない、といった変更が取引先マスタに反映されていないと、自動仕訳が古い割合のまま動き続けます
よくある誤解
Q. 自動入力補完を有効にすれば、あとは何もしなくていいですよね? A. 既存の仕訳辞書・自動仕訳ルールの「適格」「適格以外」への振り分けは自動化されますが、控除割合そのものは取引日に応じて動的に決まる仕組みです。令和8年10月・令和10年10月・令和12年10月・令和13年10月と、今後何度も切り替わりのタイミングが来るため、「一度設定したら終わり」ではなく、各切り替わりの前後で自動仕訳の結果を一度サンプルチェックする運用をおすすめします。
Q. 経理の専門知識がないスタッフでも、このプルダウンを正しく選べますか? A. 正直なところ、取引先の登録状況と経過措置の期間を両方把握していないと、正しい選択は難しいです。誤選択してもエラーは出ないため、「選べているから正しい」とは限りません。前述のとおり、手入力そのものを減らして自動判定に任せる範囲を広げる方が、現実的な対策になります。
Q. 他の会計ソフトも同じ仕様になっていますか? A. この記事はMFクラウド会計の仕様に限定した内容です。freeeなど他社ソフトの対応状況は本稿では確認していないため、使用しているソフトのリリースノートを個別に確認してください。
除外した選択肢
「決算時に一括で控除割合を調整する運用のままでよいのでは」という考え方もあります。ただ、経過措置は今後4回切り替わりが予定されており、月次で数字が動くようになった以上、決算まで放置すると月次のキャッシュフロー計算や税額の見通しが実態からずれていきます。この記事では「月次の自動仕訳の設定を都度確認する」運用を前提に整理しました。
まとめ
- MFクラウド会計は2026年7月中に、仕訳入力の「適格」チェックボックスを廃止し、控除割合(適格/80%/70%/50%/30%/控除なし)をプルダウン選択する仕様に変更した
- 背景は、免税事業者からの仕入税額控除の経過措置が段階的に下がる多段階の制度になっていること
- 既存の仕訳辞書・自動仕訳ルールは「インボイス経過措置の自動入力補完」で自動変換されるが、取引先マスタの登録状況と取引日の判定基準は個別に確認が必要
- 正しい選択には「取引先の登録状況」と「取引日がどの経過措置期間か」の2つの判断が必要で、経理知識のないスタッフの手入力ではエラーなしに誤選択が起きる。手入力を減らし自動判定に処理を寄せるのが現実的な対策
- 令和8年10月以降も切り替わりのタイミングが複数回来るため、一度設定して終わりにせず、都度サンプルチェックする運用にしておく
参考
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