2割特例が終わる ― 個人事業者の「3割特例」移行と、免税事業者への支払いで消費税負担が増える理由
インボイス登録時の負担軽減策として使ってきた「2割特例」が、令和8年9月30日が属する課税期間で終了します。個人事業者なら令和8年分の申告が最後、法人なら令和8年9月30日を含む事業年度が最後です。この記事では、その後どうするかという「登録側」の判断軸と、フリーランスなど免税事業者に外注しているEC事業者・スタートアップ側が知っておくべき「支払う側」の影響、両方を整理します。
この記事の前提
税率・適用期間・要件は、国税庁が公開している令和8年度税制改正特集ページの記載に基づいています(国税庁:インボイス制度の見直しについて)。個別の申告方式の選択は事業の状況によって最適解が変わるため、この記事は判断の材料整理にとどめ、実際の選択は顧問税理士にご相談ください。
何が終わって、何が始まるのか
まず前提を確認します。
- 2割特例:インボイス登録によって免税事業者から課税事業者になった小規模事業者向けの負担軽減措置。納付税額を売上税額の2割に抑えられる。令和8年9月30日が属する課税期間までで終了
- 3割特例:2割特例の後継として令和8年度税制改正で新設。個人事業者のみが対象(法人は対象外)。納付税額を売上税額の3割とすることができる。適用できるのは令和9年分・令和10年分の消費税確定申告の2年間のみ
3割特例の主な適用要件は次のとおりです。
- 個人事業者であること(法人は不可)
- インボイス発行事業者の登録を受けていること
- 基準期間(適用を受ける年の2年前)の課税売上高が1,000万円以下であること
国税庁は3割特例について「2割特例と同様の制限が適用される」としています。2割特例では上記のほかに、特定期間の課税売上高による制限、相続・合併・分割があった場合、新設法人・特定新規設立法人に該当する場合、高額特定資産を取得した場合、課税期間を短縮している場合など、細かな適用除外事由が定められています。3割特例にも同種の除外事由が及ぶ可能性が高いため、上記3点を満たしていても対象外になるケースがあるという前提で、個別に確認してください。
つまり「2割特例が3割特例に自動的にスライドする」わけではなく、法人はこの時点で本則課税か簡易課税を選ぶ必要がある、というのが最初の分岐点です。
判断軸:自分はどこに当てはまるか
| 事業形態 | 基準期間の課税売上高 | 令和9・10年分の選択肢 | 令和11年分以降 |
|---|---|---|---|
| 個人事業者 | 1,000万円以下 | 3割特例 / 簡易課税 / 本則課税から選べる | 簡易課税か本則課税を選択 |
| 個人事業者 | 1,000万円超 | 3割特例は不可。簡易課税か本則課税 | 簡易課税か本則課税を選択 |
| 法人 | (要件問わず) | 3割特例は対象外。簡易課税か本則課税 | 簡易課税か本則課税を選択 |
法人の顧問先からは「うちも3割特例を使えるか」という質問が今後増えると想定していますが、法人は要件に関わらず対象外です。ここを早めに伝えておかないと、令和8年分の申告直前になって慌てることになります。
簡易課税を選ぶか本則課税を選ぶかは業種によるみなし仕入率の有利不利で変わるため、この記事では立ち入りません。原則は「適用を受けたい課税期間が始まる前」に簡易課税制度選択届出書の提出が必要ですが、令和8年度改正で、2割特例・3割特例を適用していた課税期間の翌課税期間に限り、確定申告の期限までに届出書を提出すればその課税期間から遡って簡易課税を適用できる特例が設けられました。2割特例・3割特例からの移行がまさにこのケースに当たるため、期限を過ぎたと諦める前に確認する価値があります。
もう一つの軸:免税事業者に払う側の負担
ここまでは「登録した側」の話でした。もう一つ見落とされがちなのが、フリーランスなど免税事業者に外注している側の負担です。
免税事業者からの課税仕入れにかかる仕入税額控除には、次の経過措置があります。
| 期間 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 〜令和8年9月30日 | 80% |
| 令和8年10月1日〜令和10年9月30日 | 70% |
| 令和10年10月1日〜令和12年9月30日 | 50% |
| 令和12年10月1日〜令和13年9月30日 | 30% |
| 令和13年10月1日〜 | 控除不可(0%) |
令和8年10月からは、今まで80%控除できていたものが70%に下がります。これは免税事業者との取引をやめろという話ではなく、控除できない分だけ実質的な仕入コストが上がるという話です。
具体例で見る負担増
例えば、EC事業者が免税事業者のフリーランスエンジニアに月50万円(税込55万円、消費税相当額5万円)を外注しているケースで考えます。
- 令和8年9月まで:5万円 × 80% = 4万円が控除できる → 実質的な消費税負担は1万円
- 令和8年10月〜:5万円 × 70% = 3万5,000円の控除に縮小 → 実質的な消費税負担は1万5,000円
月あたりの差は5,000円ですが、年間では6万円、複数の免税事業者に外注している会社ではその人数分だけ積み上がります。しかも令和10年10月以降は50%、令和12年10月以降は30%と段階的に縮小が続くため、「今は誤差レベル」でも数年単位で見ると無視できない額になります。
発注側としてできる対応
- 外注先がインボイス登録済みかどうかを、契約更新や単価見直しのタイミングで確認する
- 免税事業者のままの外注先には、控除縮小分を踏まえた単価交渉を早めに切り出す(急に「値下げしてほしい」と言うより、経過措置のスケジュールを共有した方が納得を得やすい)
- 自社の会計freee・MoneyForwardクラウド等で「適格請求書かどうか」を区分管理し、控除割合の変更に合わせて自動計算されているか確認する
よくある誤解
Q. 2割特例が終わったら、3割特例のほうが有利になる制度なんですよね? A. そうとは限りません。2割特例は「売上税額の2割」、3割特例は「売上税額の3割」を納めるので、3割特例の方が納付額は増えます。あくまで簡易課税や本則課税に比べて計算・事務負担が軽い、という位置づけの措置です。実際の税負担は簡易課税や本則課税と比較して試算しないと、有利不利は判断できません。
Q. 免税事業者との取引自体ができなくなるんですか? A. いいえ。取引自体は今までどおり可能です。変わるのは発注側が仕入税額控除できる割合だけで、免税事業者からの仕入れが禁止されるわけではありません。
Q. 3割特例は令和11年分以降も続くんですか? A. 続きません。令和9年分・令和10年分の2年間限定の措置です。令和11年分からは簡易課税か本則課税のどちらかを選ぶ必要があります。
除外した選択肢
「全員インボイス登録すればこの問題は解決するのでは」という考え方もありますが、免税事業者のままでいることを選ぶ事業者にも売上規模や事務負担の事情があります。発注側から登録を強制するような伝え方は下請法・独占禁止法上の問題になり得るため、この記事では「登録を促す」ではなく「経過措置のスケジュールを共有した上で単価交渉の材料にする」という表現にとどめています。
まとめ
- 2割特例は令和8年9月30日が属する課税期間で終了。個人事業者は3割特例(令和9・10年分限定)に移行できるが、法人は対象外
- 3割特例の後は結局、簡易課税か本則課税を選ぶ必要がある。届出のタイミングに注意
- 免税事業者への支払いがある側は、仕入税額控除が80%→70%→50%→30%→0%と段階的に縮小することで実質コストが増える
- どちらの立場でも、令和8年10月というタイミングを境に数字が動く。契約更新や申告方式の見直しは前倒しで検討する
参考
税額の試算や申告方式の選択は事業ごとに事情が異なります。詳細は個別にご相談ください。
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