ゼイジニア
ブログ一覧に戻る
税務

海外への支払い、20.42%を差し引かずに送ってしまっていませんか ― 分かれ目は「どこで作業したか」と「権利を借りているか」

2026-08-23/池田 信明

結論を先に3行で

  • 海外の相手への支払いに、全部20.42%を差し引く必要はありません。差し引くのは、所得税法が種類を限って並べているものだけです
  • 越境ECで判断が分かれるのはほぼ2つ。海外のフリーランスへの外注費(作業をどこでしたかで決まる)と、イラスト・写真・ロゴ・ブランド名などを使わせてもらう代金(自社の日本での商売に使うなら対象になり得る)です
  • 差し引く必要があったのに満額を送ってしまうと、あとで税金を払うのは相手ではなく自社です。国どうしの取り決め(租税条約)で本来ゼロになるはずだった支払いでも、紙を先に出していなければゼロにはなりません

急ぐ方は、この記事の後半にある「明日からの手順」だけ読んでいただいても大丈夫です(8項目・5分ほどで読めます)。


なぜ「払う側」が税金を預かることになっているのか

先に、この制度が何のために置かれているかを押さえると、後の判断がぶれません。

日本に生活の拠点がない個人(非居住者といいます。腰を据えて住んでいる場所=住所も、1年以上続けて滞在している場所=居所も日本にない人、という意味です)や、日本に本店を置いていない会社(外国法人)は、世界中で稼いだ所得のうち、日本国内で稼いだと法律が決めている分だけが日本の課税対象になります。この「日本国内で稼いだと決めている所得」を、法律の言葉では国内源泉所得といいます(所得税法5条、7条、161条)。

ここで実務上の問題が起きます。相手は海外にいて、日本に事業所も口座もないことが多い。日本の税務署が「申告してください」と言っても届きませんし、届いても取りに行けません。

そこで所得税法212条1項は、日本国内にいる支払者のほうに「払うときに所得税を差し引いて、翌月10日までに納めてください」という義務を課しました。差し引いて代わりに納めることを源泉徴収といいます。

ただし、この義務がかかるのは、法律が挙げている所得のうち161条1項4号から16号までに並んでいるものだけです。1号から3号は源泉徴収の対象外で、相手が自分で申告することになっています。

ここで出てくる「」は、条文の中を「1.」「2.」と区切った箱の番号のことです。この記事では箱の名前として出てくるだけなので、「161条1項の11番の箱」くらいの読み方で足ります。あとで出てくる「12号イ」は、12番の箱の中がさらに「イ・ロ・ハ」に枝分かれしていて、その1本目、という意味です。

もうひとつ、相手が個人か会社かで、見る箱が少し変わります。 相手が海外の会社(外国法人)の場合は、下の表の「12号イ(日本国内で働いたことへの支払い)」の行は使わず、代わりに「6号(人を送り込んで作業させた代金)」の行を見ます。相手が海外の個人なら12号イです。契約書の相手方が個人名か会社名かで見分けられます。

番号は覚えなくて大丈夫です。 このあとの表で、越境ECに関係する行だけを見ます。ここでは「日本で稼いだお金でも、全部を差し引くわけではなく、法律が挙げた種類だけ」とだけ持って帰ってください。

そしてもうひとつ、大事なことがあります。源泉徴収の義務は、相手の義務ではなく自社の義務です。 相手が「うちは日本で税金を払う立場にない」と言ってきても、それは相手の言い分であって、納める義務が自社から消えるわけではありません。逆にいえば、相手が納得していなくても差し引いていい、ということでもあります。

対象かどうかは「相手が海外かどうか」ではなく「何の代金として払うか」で決まります

よくある誤解が「海外の会社に払うから源泉徴収」というものですが、判定に使うのは支払の中身です。国税庁が出している事業者向けのリーフレット(令和7年=2025年9月)は、確認すべき支払いとして次のようなものを挙げています。

越境ECで実際に出てくるのは、次の3行だけです。

支払の中身 税率 根拠(所得税法161条1項)
人を送り込んで日本国内で作業させたことへの支払い(法律の言葉では「人的役務の提供を主たる内容とする事業の対価」) 20.42% 6号
他人が持っている権利を借りて使わせてもらう代金(「使用料」)や、権利そのものを買い取った代金(「譲渡対価」)。特許・商標・ノウハウ・著作権など 20.42% 11号
給与・報酬など、日本国内で働いたことに対する支払い 20.42% 12号イ

このほか、日本国内の土地・建物を買った代金(5号、10.21%)や借りた賃料(7号)、日本国内の商売のために借りたお金の利息(10号)、日本国内の事業の広告宣伝のための賞金(13号。50万円を差し引いた残りに対して)も対象に挙がっていますが、越境ECではまず出てきません。

20.42%という半端な数字は、所得税20%に、そこへ上乗せされている2.1%分(復興特別所得税)を加えたものです(20% × 1.021 = 20.42%)。この2.1%の内訳は2027年1月から変わりますが、差し引く額は変わりません(後半で触れます)。

ひとつ用語の予告:この記事の「使用料」は、SaaSの月額利用料のことではありません

「使用料」と聞くと、毎月払っているクラウドサービスの利用料を思い浮かべると思います。この記事で出てくる「使用料」は、それとは違い、他人が作ったもの・考えたものを、自社の商売で使わせてもらうために払うお金を指しています。イラストをパッケージに刷らせてもらう、写真を自社サイトに載せさせてもらう、ブランド名を使わせてもらう、といった支払いです。

(では毎月のSaaS利用料はどちらなのか、という話は、後ろの「よくある誤解」に書きます。)

対象にならないもの

表に出てこないものがあります。商品の仕入代金、海外倉庫の保管料、海外での配送料、展示会の出展料、海外の広告出稿費といった、相手が自分の国で普通に商売をして得ている利益です。これらは所得税法161条1項が並べているどの号にも当たらないため、そもそも源泉徴収の対象になりません。

越境ECの海外送金は、金額で見れば大半がこちら側です。だからこそ、混ざっている少数の行を見つけられるかが実務の要点になります。

【余談・支店がある相手と取引している人だけ読んでください】 「相手が日本国内に支店や事務所(恒久的施設。英語の頭文字でPEとも呼ばれます)を持っていなければ源泉徴収は不要」と説明されることがありますが、これは正確ではありません。差し引くかどうかを決めているのはPEの有無ではなく、支払の中身が161条1項4号から16号までに当たるかどうかです。 逆向きの事故もあります。権利を借りた代金(使用料・11号)や、人を送り込んで作業させた代金(6号)は、相手が日本に支店を持っていても原則として差し引きが必要です(相手が「日本で自分で申告するので差し引かないでほしい」という税務署長の証明書をもらっている場合などは別です。所得税法180条、214条)。PEの話は「相手が日本で申告するかどうか」であって、「自社が差し引くかどうか」とは別だと切り分けてください。

分かれ目1:海外のフリーランスへの外注費は「どこで作業したか」

商品写真のレタッチ、LPのデザイン、翻訳、ECサイトの開発。海外の個人に頼むことはもう珍しくありません。

条文を見ると、所得税法161条1項12号イは、給与や報酬のうち「国内において行う勤務その他の人的役務の提供に基因するもの」を日本国内で稼いだ所得としています。「人的役務の提供」というのは、人が体や頭を使って行う仕事のことです。「〜に基因する」は「〜が原因で発生した」という意味です。つまり全体を読者の言葉にすると、日本の中で働いたことに対する報酬、ということになります。

そうすると、ベトナムに住むデザイナーがベトナムで作業した分の報酬は、この条文には当たりません。支払う側が日本の会社であっても、送金元が日本の銀行であっても、そこは関係ありません。判定に使うのは「仕事がどこで行われたか」です

この号にはひとつ例外がカッコ書きで入っています。日本の会社の役員が国外で行う勤務は、日本国内で稼いだ所得に含められています(161条1項12号イ)。海外在住の共同創業者や、現地法人の代表を日本法人の役員としても登記している、といったケースでは、作業場所が国外でも対象になり得ます。

ただし、隣に別の条文が置いてあります。同項6号の、人に来てもらって、その人の腕前そのものを買うタイプの商売の対価です。対象は3つに絞られています(所得税法施行令282条)。

  1. 芸能・スポーツの仕事(俳優、音楽家などの芸能人、プロスポーツ選手。法律の言葉では「職業運動家」)
  2. 資格を持った専門家の仕事(弁護士、公認会計士、建築士など。法律の言葉では「自由職業者」)
  3. 技術や経営の専門知識・特別の技能を持つ人が、その知識・技能を使って行う仕事(ただし、機械を売ったついでに行う作業や、建設・据付工事の現場監督にあたる仕事は除きます。いずれも越境ECの読者には縁のない仕事です)

こちらも頭に「国内において」が付いています。海外のコンサルタントが来日して社内研修をしたなら3番の話になりますが、オンライン会議で海外から助言を受けているだけなら、原則としてこの条文には当たりません。

迷ったときに見る2点

  • 相手が日本に来て作業した日があるか(来日していれば、その分は日本国内で行った仕事です)
  • 相手が自社の役員になっていないか(なっていれば、国外での勤務でも対象になり得ます)

このどちらも「ない」なら、純粋な海外作業の外注費として整理できる可能性が高くなります。ただし、次の分かれ目にかかることがあります。

分かれ目2:権利を借りている支払いは「自社の日本の商売に使うか」

ここが実務でいちばん取りこぼされます。

所得税法161条1項11号は、「国内において業務を行う者から受ける」次の代金で、その日本での商売に係るものを日本国内で稼いだ所得としています。

  • イ 技術を使わせてもらう代金(特許権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式などの使用料または譲渡対価)
  • ロ 作品を使わせてもらう代金(著作権の使用料または譲渡対価。演奏や録音をした人の権利=「著作隣接権」、本として出す権利を与えること=「出版権の設定」も含みます)
  • ハ モノを借りた代金(機械、装置、車両、運搬具、工具、器具備品の使用料)

国税庁のリーフレットは、ロについて「著作物の複製、上演、演奏、放送、展示、上映、翻訳、編曲、脚色、映画化その他著作物の利用又は出版権の設定につき支払う対価の一切」と書いています。イラストをパッケージに印刷するのは「複製」ですし、海外で撮ってもらった写真を日本のサイトに載せるのも「利用」です。

つまり、12号イが「どこで作業したか」で見るのに対して、11号は「日本で商売をしている人が払っているか、その日本の商売に使うものか」で見ます。同じ相手への同じ振込でも、契約の中身しだいで別の条文に乗るということです。

契約の書き方 どの条文の話になりやすいか 海外で作業した場合の差し引き
「レタッチ作業の代金」として支払い、成果物の権利に触れていない 12号イ(人が働いたことへの報酬) 国外での作業なら対象外と整理できる可能性が高い
「本イラストの複製・利用を許諾する代金」と書いてある 11号ロ(作品を使わせてもらう代金) 作業場所を問わず、日本の商売に使うなら対象になり得る
「著作権を譲渡する代金」と書いてある 11号ロ(権利を買い取った代金) 同上
作業と権利の譲渡が1本の金額にまとまっている 両方が混ざっている状態 内訳を分けられるかを先に検討する

同じ理由で、「広告出稿費だから対象外」と一律に決めるのも危険です。契約の中に、素材やノウハウ、商標を使わせてもらう約束が抱き合わせで入っていれば、その部分は11号の話になり得ます。見るのは請求書の勘定科目名ではなく、契約の中身です。

ここは「○ならセーフ、×ならアウト」と割り切れる場所ではありません。契約書がなく、メールと請求書しか残っていないケースも多いはずです。その場合、まずやることは判定ではなく、「何の代金として払ったのか」を1枚の紙に残すことです。たとえばこれくらいで足ります。

相手:Jane Doe(米国/個人)
支払日:2026-09-15
金額:USD 2,000(送金時レート 円)
何の代金か:☑ 作業の代金 ☑ 作品を使わせてもらう代金(複製・利用の許諾)
内訳が分かれているか:分かれていない(1本の金額)
根拠にした書類:発注メール(2026-08-20)、請求書 INV-0042

あとから中身を変えることはできませんが、いま決まっていることを書き残すことはできます。

具体例:越境ECのC社(従業員6人)の1か月

大阪で雑貨を作って海外に売っているC社を例にします。ある月の海外への支払いが5本ありました。

# 相手 内容 金額 差し引きの検討
1 台湾の物流会社 現地倉庫の保管料 18万円 不要
2 海外の広告プラットフォーム 広告出稿費(権利の許諾なし) 45万円 不要
3 フィリピン在住のフリーランス 商品写真のレタッチ(現地で作業。契約書は「作業の代金」) 8万円 不要の方向
4 米国のイラストレーター ブランドキャラクターの絵。契約書に「パッケージと広告での複製・利用を許諾する」と記載 30万円 要検討(11号ロ)
5 シンガポールのコンサルタント 来日して2日間の売場指導 20万円 要検討(12号イ/6号)

5本のうち、検討が必要なのは4と5の2本だけです。金額でいえば93万円のうち50万円。残りの3本は判定に時間を使う必要がありません。

1と2は、相手が自分の国で行っている商売の利益で、161条1項のどの号にも当たりません(消費税の扱いは別の話です。海外の事業者への支払いにかかる消費税は「海外SaaSへの支払い、消費税はどう処理する?」で整理しています)。

3は、仕事が国外で行われています。契約も作業の代金として書かれています。12号イには当たらない方向で整理できる行です。この行で明日やることは「差し引かずに送る」ではなく、「契約書と発注のやりとりのメールを1つのフォルダにまとめておく」ことです。 あとから聞かれたときに、その2つがあれば説明が付きます。

4が、この記事のいちばん言いたい行です。相手は海外にいて、絵も海外で描かれています。ここだけ見ると3と同じに見えます。しかし契約書に「複製・利用を許諾する」と書いてあり、C社は日本での商売(自社商品のパッケージと広告)にそれを使います。11号ロとして整理される可能性が高い行です。

5は、来日して日本国内で仕事をしています。相手が個人として直接契約しているなら12号イ、コンサルティング会社から派遣されている形なら6号の話になります。どちらでも税率は20.42%なので、差し引く金額そのものは変わりません(20万円 × 20.42% = 40,840円)。契約書の相手方が個人名なのか会社名なのかを見れば、たいてい見当が付きます。

実際の支払いが外貨建ての場合、差し引く額はどの時点のレートで円に直すかで変わります。ここは自社で決め打ちせず、最初の1件だけ税理士にレートの取り方を確認して、以後はそのルールに揃えてください(上のメモ様式に「送金時レート」の欄を置いているのは、そのためです)。以下は、円建てで30万円だった場合として計算します。

4を対象として処理する場合の金額は次のとおりです。

  • 差し引く額:300,000円 × 20.42% = 61,260円
  • 相手への送金額:300,000円 − 61,260円 = 238,740円
  • 納める期限:支払った月の翌月10日

会計ソフトの入力は、一般的には次のようになります(勘定科目名は自社の設定に合わせてください)。

支払手数料など(費用)  300,000 / 普通預金       238,740
                              / 預り金(源泉所得税) 61,260

翌月10日の納付時:
預り金(源泉所得税)    61,260 / 普通預金        61,260

費用に計上するのは、差し引いたあとの238,740円ではなく契約額の300,000円です。ここを送金額で入れてしまうと、あとで金額が合わなくなります。

そしてここからが本題です。相手が米国の居住者なら、この61,260円は本来ゼロにできます

国どうしの取り決めでゼロにできる支払いでも、紙を先に出さないと引かれます

国どうしで結んでいる税金の取り決めを租税条約といいます。日米租税条約12条1は、権利を使わせてもらう代金についてこう定めています。

一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者が受益者である使用料に対しては、当該他方の締約国においてのみ租税を課することができる。

条文の言葉を置き換えると、こうなります。

  • 一方の締約国/他方の締約国 … 条約を結んでいる2つの国。ここでは日本とアメリカ
  • 受益者 … その代金を、名義だけでなく実際に自分のものとして受け取る人(間に名義だけの会社を挟んでいない相手)
  • 当該他方の締約国においてのみ租税を課することができる … 税金はアメリカだけが取れる。つまり日本では課税しない

全体を読者の言葉にすると「日本で発生した使用料でも、アメリカに住む人が本当の受け取り手なら、日本は税金を取らない」となります。C社の4の支払いは、条件を満たせば差し引きが不要になります(相手が日本国内に支店を持っていて、その権利が支店の商売と実際に結びついている場合は、この規定ではなく事業の利益についての規定で扱われます。同条3)。

ただし国税庁は、紙が間に合わなければ条約の上限は使えず、日本の法律どおりの20.42%になる、とはっきり書いています。

非居住者等が支払を受ける日の前日までに税務署長へ届出書およびその添付書類を提出していない場合には、支払者は、支払の際、日本と締結している各租税条約に規定している限度税率を適用するのではなく、国内法に規定する税率によって源泉徴収を行います。

引用の中の言葉を置き換えると、こうなります。

  • 非居住者等 … 海外の個人と海外の会社の両方をまとめた呼び方です。この記事ではずっと「相手」と書いてきたものです
  • 限度税率 … 条約が決めている「ここまでしか取らない」という上限の税率(この記事の例ではゼロです)
  • 国内法 … 日本の所得税法のこと

つまり、紙が出ていなければ、その上限ではなく日本の法律どおりの20.42%で差し引くことになる、という意味です。

条約があることと、条約が効くことは別です。

条約によっては、「条約の恩恵を受けられる相手かどうか」を条約の側で絞っている規定が付いています(特典条項といいます)。日米租税条約にはこれがあるので(同条約22条)、米国の相手なら出す紙が2つ増えます。全部で3枚です。

何を 中身 自社がやること
① 租税条約に関する届出書(権利を使わせてもらう代金なら様式3 相手が、支払者ごとに作成する 国税庁のこのページからPDFを落として相手に送り、記入方法を案内して返送してもらう
② 条約が相手を絞っている場合(特典条項)の付表(様式17 「この相手は条約の恩恵を受けられる立場か」を書かせる紙 同じく国税庁のページから落として相手に送る
③ 相手の国が「この人(会社)はうちの国の住人です」と証明する書類(居住者証明書 米国なら IRS の Form 6166。相手が Form 8802 で申請して取り寄せる 相手に申請を依頼する。手数料と数週間かかるので、3枚の中で最優先
いつまでに 最初にその代金の支払を受ける日の前日まで 送金予定日から逆算して依頼する
どこへ 支払者を経由して、支払者の納税地の所轄税務署長へ 相手から届いた紙を、自社が普段申告書を出している税務署へ出す

なお、税務署へ出す作業そのものは税理士に代行してもらえます。相手から3枚を集めるところまでが自社の仕事で、そこが遅れると誰にも間に合わせられません。

支払者ごとに作成」なので、相手が他社にも同じ書類を出していても、自社あての分は別に必要です。逆に、一度出せば、記載内容が変わらない限り毎回出し直す必要はありません。相手の住所や名称が変わったなど内容に変更があった場合は、変更後最初の支払日の前日までに出し直します。

依頼メールのひな型(米国の相手の場合)

Subject: Documents needed for Japan withholding tax exemption

Hi ___,

Under the Japan–US tax treaty, our payments to you can be exempt from
Japanese withholding tax (otherwise we must withhold 20.42%).
To apply the exemption, we need the following before our next payment
date (___):

1. "Application Form for Income Tax Convention" (Form 3) — attached,
   please complete and sign.
2. "Attachment Form for Limitation on Benefits Article" (Form 17)
   — attached, please complete and sign.
3. A US residency certificate (IRS Form 6166). This is requested from
   the IRS using Form 8802 and can take several weeks, so please start
   this as early as possible.

We will file these with the Japanese tax office on your behalf.

Thanks,
___

書類が次の支払日までに間に合わない場合は、いったん差し引いて送ることになります。相手からは「契約額を勝手に減らされた」と受け取られるので、あわせて一文を添えておくと揉めにくくなります。

For this payment, we are required by Japanese law to withhold 20.42%
(JPY ___). This is a Japanese tax, not a fee charged by us. Once the
treaty documents above are filed, future payments will not be reduced.

居住者証明書の保存は、税理士ではなく自社の仕事です

居住者証明書の扱いには細かい決まりがあり、これは書類を受け取る自社側の作業です。やり方は2つあります。(A) 原本を届出書にそのまま付けて出すか、(B) 原本は相手の手元に残したまま、自社が見せてもらって確認する(法律の言葉では「提示」)かです。(B)を選んだ場合だけ、次の作業が自社に発生します。

やること 内容
届出書への記載 「その他参考となるべき事項」欄に、確認した旨・確認者の氏名(所属)・確認日・証明書の作成年月日を書く
写しの作成と保存 写しを作り、提示を受けた日から5年間、国内の事務所等に保存する
証明書の新しさ 提示による方法をとる場合、提示の日前1年以内に作成されたものに限られる

つまり「一度もらったから永久に使える」書類ではありません。継続的に払っている相手がいるなら、この期限は契約更新のタイミングで管理する対象になります。

出し遅れたときの後始末は、思ったより面倒です

期限に間に合わなくても取り返す道はあります。後日、届出書とあわせて「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書(様式11)」を自社の所轄税務署に出せば、納めすぎた分を返してもらう請求ができます(納めすぎた税金を返してもらうことを還付といいます)。ただし、返ってくる先が自社とは限りません。

ただし、ここには制約が3つあります。

  1. 還付金は「原則として申請者である非居住者等に還付します」とされています。戻り先は相手であって自社ではありません。 自社が代理で受け取るには、相手からの委任状とその翻訳文が必要です
  2. 戻ってくるのは、もともと差し引いて納めるべきだった税金だけです。遅れたことへの罰金的な税(不納付加算税)や、遅れた日数分の利息にあたる税(延滞税)は戻りません
  3. 申請者は相手なので、相手に動いてもらわないと手続きが始まりません

言い換えると、出し遅れて余分に納めた61,260円は、放っておけば会社ではなく相手に返ります。相手からすれば「日本の税務署から入金があった」という話であって、C社が自動的に取り戻せるわけではありません。紙は前日までに、が実務上ほぼ唯一の正解なのはこのためです。

なお、届出書と付表は、一定の要件を満たせば電子的な方法でのやり取りや、e-Tax(国税の電子申告システム)での送信もできます。海外の相手に紙の原本を国際郵便で送ってもらう前提で諦めていた場合は、税理士に「電子でいけますか」と一度聞いてみてください。

納めるのは翌月10日まで。給与でおなじみの「年2回まとめて」は使えません

給与の支払人数が常時10人未満の会社は、源泉徴収した税金を半年分まとめて納められる特例(納期の特例)を使っていることが多いと思います。7月10日と翌年1月20日の年2回にする、あのしくみです。

この特例の対象は、国税庁の説明では「給与や退職金から源泉徴収をした分と、税理士、弁護士、司法書士などの一定の報酬から源泉徴収をした分に限られています」(所得税法216条)。この「一定の報酬」は、税理士・弁護士・司法書士などに払う報酬のことで、対象になる種類は法律で決まっています。非居住者に支払った給与・退職金もこの中に入っています。

一方、海外に権利を使わせてもらった代金や、人を送り込んでもらった代金から差し引いた分は、この特例に入っていません。 支払った月の翌月10日までに納めます。給与の納付を年2回で回している会社ほど、ここで期限を落としがちです。

自社が特例を使っているかどうかは、源泉所得税の納付が年2回(7月10日と翌年1月20日)だけになっているかを見れば分かります。毎月納めているなら特例は使っていません。分からなければ、税理士に「うちは納期の特例ですか」と聞くのが早いです。

例外もあります。送金そのものが日本の外で完結している場合(自社が海外に持っている口座から相手の海外口座へ送るなど)は、自社が日本に事務所を持っている以上「日本で払ったのと同じ扱い」になりますが(法律の言葉では「国内において支払ったものとみなす」)、納める期限だけは1か月遅い翌月末日になります(所得税法212条2項)。

判定に使うのは「支払が国外で行われたかどうか」です。日本国内の銀行口座から送っているなら通常は国内での支払いになります。

越境ECだと、Payoneer や Wise の残高からそのまま外注先に払っている会社が多いはずです。この形が「日本での支払い」になるのか「日本の外での支払い」になるのかは、口座の置かれ方や送金の経路で変わります。該当する支払いがある場合は、期限が翌月10日なのか翌月末日なのかが変わるので、必ず税理士に確認してください。

もうひとつ、納付書も専用のものを使います。通常の給与用の納付書ではなく、「非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書」というものです。名前は長いですが、これが納付書そのものの名称です。税務署でもらうか、e-Tax(国税の電子申告システム)で作成します。税理士事務所から納付書をもらっている会社は、この様式も手配してもらえるか、初回の送金前に確認しておいてください。

2027年から新しい税が増えますが、差し引く額は今と同じです

先に結論だけ書きます。20.42%も、計算方法も、この記事の内容も変わりません。 変わるのは名前と内訳だけです。以下は念のための詳細です。

令和8年度税制改正で、所得税に上乗せする新しい税ができました(防衛特別所得税)。差し引く側、つまり自社は、所得税を差し引くときに、その所得税額の1%にあたる分を一緒に差し引き、所得税と同じ期限までに納めます。あわせて、復興特別所得税の税率が2.1%から1.1%に下がり、この税を取る期間が2047年(令和29年)12月31日まで10年延びました。適用は2027年(令和9年)1月1日以後に生じる所得からです。

  • 合計の上乗せは 1% + 1.1% = 2.1% で、改正前と同じです
  • 租税条約の上限の税率が適用される場合や、条約で所得税が免除される場合には、防衛特別所得税も復興特別所得税も課されません
  • 手元にある「所得税及び復興特別所得税」と印字された納付書は、2027年(令和9年)1月以後もそのまま使って差し支えないとされています(欄の補正も不要)

自社の作業としてやることはありません。 納付書もそのまま使えるので、2027年に向けて準備することはない、という理解で大丈夫です。

差し引き忘れたときに、いくら払うことになるか

税務署は、差し引かなかった会社から取ります。相手からではありません。 所得税法221条1項はこう書いています。

第一章から前章まで(源泉徴収)の規定により所得税を徴収して納付すべき者がその所得税を納付しなかつたときは、税務署長は、その所得税をその者から徴収する。

「その者」というのが、差し引くべきだった自社のことです。

法律上、自社が相手に請求する道は用意されています(所得税法222条)。以後支払う金額から差し引くか、相手に支払いを請求できる、という規定です。ただし、すでに取引が終わった海外の個人に「1年前の報酬から20.42%返してください」と言って回収できるかは、まったく別の話です。実務では会社の負担で終わることが多い、と考えておいたほうが安全です。

これに罰金的な税が乗ります。

項目 割合 根拠
期限までに納めなかったときの罰金的な税(不納付加算税 10% 国税通則法67条1項
同上・税務署から「納めてください」という通知(納税の告知)を受ける前に自分から納めた場合 5% 同条2項
同上・本来の期限(翌月10日)から1か月以内に自分で納め、かつ直前1年間に納め遅れがない場合 かからない 同条3項、国税通則法施行令27条の2第2項(この本来の期限を法律では「法定納期限」といいます)
遅れた日数分の利息にあたる税(延滞税 令和8年は、期限の翌日から2か月まで年2.8%、それ以降は年9.1% 国税通則法60条ほか

「調査で指摘される前に自分から納めれば半分」という点は、あとで効いてきます。過去分に心当たりがある場合は、ここを覚えておいてください。

罰金的な税は「1年分をまとめて10%」ではなく、月ごとに、端数を切り捨てながら積み上げる計算になります。そのため、税理士から聞いた金額が自分の暗算とズレます。以下は、金額を聞いたときに驚かないための細かい決まりです。計算するのは税理士や税務署なので、読み飛ばしていただいて構いません。

  • 罰金的な税(加算税)を計算するときは、もとになる税金(本税。この記事の例では、差し引いて納めるべきだった61,260円のほうです)の1万円未満を切り捨てます(国税通則法118条3項)
  • 加算税は、その額が5,000円未満なら切り捨てられます(同法119条4項)
  • 延滞税などの上乗せ分も、全額が1,000円未満なら切り捨てられます(同項)
  • 不納付加算税は、所得の種類ごと、かつ本来の期限が異なるごとに計算します(国税庁が職員向けに出している取扱いの文書=事務運営指針)

試算(前提を先に書きます)

  • 月30万円の使用料を12か月、差し引かずに満額送金していた
  • 1年経った時点で税務調査の指摘を受け、税務署からの通知を受けて納付した(=5%への軽減も、1か月以内の不適用も使えない)
  • 相手からは回収できず、会社が全額を負担した
  • 租税条約の届出書は出していない
項目 金額
もともと差し引いて納めるべきだった税金(本税) 300,000円 × 20.42% = 61,260円/月、× 12か月 = 735,120円
不納付加算税(10%) 月ごとに計算。61,260円 → 1万円未満を切り捨てて60,000円 → × 10% = 6,000円/月、× 12か月 = 72,000円
延滞税(各月の期限からの経過日数に応じて。1,000円未満切捨て) おおよそ2万〜3万円
合計 およそ83万円

この83万円は、3枚の紙(届出書・特典条項に関する付表・居住者証明書)を支払いの前日までに出していれば、ゼロで済んでいた金額です。紙3枚と83万円が交換されている、という構図がこの制度のいちばん理不尽に見えるところですが、逆にいえば準備できる種類のリスクでもあります。

なお、この試算は上に書いた前提を置いた場合の数字です。相手の国、契約の内容、支払の時期によって結論は変わります。そのままご自身のケースに当てはめないでください。

明日からの手順

税理士に丸ごと渡す前に、社内で1時間あればできる範囲を書いておきます。

  1. 次の海外送金が今週ある場合は、いったん止める。 対象かどうか分からないまま満額送るのがいちばん高くつきます。止めるほうが実害が少ないです
  2. 直近12か月の海外への支払いを1枚に並べる。 外国送金の明細、Payoneer や Wise の出金履歴、法人カードの海外決済分の3か所を見れば、たいてい網羅できます
  3. 各行に2列足す。 「仕事はどこで行われたか(国内/国外/不明)」と「契約に権利の使用・許諾・譲渡が入っているか(あり/なし/契約書なし)」
  4. 「国内」または「あり」が付いた行だけを抜き出す。 これが検討の対象です。おそらく全体の1割にも満たないはずです
  5. 抜き出した行について、契約書・発注書・見積書・メールを1件ずつ集める。 判定は書類がないと進みません
  6. 過去分に対象がありそうなら、その日のうちに税理士に連絡する。 税務署から指摘される前に自分から納めれば罰金的な税が10%から5%に、条件が合えばゼロになります。時間が経つほど選択肢が減ります
  7. 継続して払っている相手には、居住者証明書と届出書への協力を依頼する。 用紙は国税庁のこのページから落とせます。依頼メールは上のひな型を使ってください。米国なら IRS の Form 8802 で申請して Form 6166 を取ってもらいます。国によっては数週間かかるので、次の支払日から逆算します
  8. 契約書がない相手には、次回の発注から「何の代金か」を書いた1枚を作る。 上のフォーマットで足ります

4で1件も残らなければ、それが分かったこと自体が成果です。残った行がある場合は、契約書を添えて税理士に相談してください。判定を1行ずつ詰める作業は、書類が揃っていれば思ったより早く終わります。

よくある誤解

Q. 相手が個人ではなく会社(外国法人)なら、差し引きは要らないのでは?

いいえ。所得税法212条1項は、非居住者への支払いと外国法人への支払いの両方を対象にしています。個人か法人かは判定の分かれ目になりません。

Q. 海外のサービスを買ったときに消費税を自社で申告する話(リバースチャージ)と同じですか?

別の税で、判定の軸も違います。消費税は「そのサービスをどこで受けたか」や「相手が事業者だけに売っているサービスか」で見ますが、源泉所得税はこの記事で見てきたとおり「どこで作業したか」「日本の商売に使う権利か」で見ます。片方が対象で片方が対象外、という組み合わせが普通に起きます。 消費税側は「海外SaaSへの支払い、消費税はどう処理する?」をご覧ください。

Q. カードで払っている海外のSaaSの月額利用料も、権利を使わせてもらう代金(使用料)ですか?

ここは契約の中身によります。不特定多数に同じ条件で提供されている完成品を、自社が使うためだけに利用料を払っている形なのか、自社の商品やサービスに組み込んで提供するための権利を借りている形なのかで、見るべき条文が変わります。一律に「SaaSだから使用料」「SaaSだから対象外」と決めてしまわないことをおすすめします。 契約書(英語の Terms of Service を含む)を見るときは、"License Grant"(使用許諾)、"Restrictions"(制限)、"Intellectual Property"(知的財産)といった見出しを探すと、権利をどう扱っているかが分かります。

Q. 20.42%を差し引くと、相手が受け取る額が契約額より減ってしまいます。

契約で「手取りいくら」と決めている場合は、その手取り額から逆算した総額に対して差し引くことになります。計算は「支払総額 = 手取額 ÷ (1 − 0.2042)」です。手取り30万円なら支払総額は376,979円、差し引く額は76,979円になります(いずれも1円未満切捨て)。契約を結ぶ前に、どちらの建て方かを決めておくと後で揉めません。

Q. 少額でも対象ですか?

金額による足切りは、この制度には基本的にありません(広告宣伝のための賞金に50万円の控除があるなど、種類ごとの個別ルールはあります)。月数万円の外注でも、判定の入口は同じです。

「全部から20.42%引いておく」はおすすめしません

「とりあえず全部から引いておけば安全では」という考え方もあります。実際にそうしている会社もあります。ただ、対象外の支払いから差し引いた税額は、相手が還付請求をしない限り戻ってきませんし、相手との関係も悪くなります。海外の取引先から見れば「契約額を一方的に2割減らされた」という話です。安全側に倒すなら、全部から引くのではなく、支払いを止めて先に確認するほうが実害が少ないと考えています。

まとめ

  • 差し引きが要るかどうかは、相手が海外かどうかでも、相手が日本に拠点を持つかどうかでもなく、何の代金として払うかで決まります
  • 越境ECで判断が分かれるのは、海外フリーランスへの外注費(どこで作業したか)と、権利を使わせてもらう代金(日本の商売に使うか)の2つです
  • 国どうしの取り決めでゼロになる支払いでも、支払日の前日までに紙を出していなければ、日本の法律どおりの税率で差し引かれます
  • 対象なら翌月10日(送金が日本の外で完結している場合は翌月末日)までに納付。給与用の年2回の特例は使えません
  • 差し引き忘れたときに払うのは会社です。相手に請求する規定はありますが、回収できる保証はありません

個別の契約について要否を判断するには、契約書と支払いの実態を見る必要があります。自社の海外への支払いに気になる行があれば、その契約書を添えてご相談ください。

根拠にした国税庁・法令のページ

※本記事の税率・手続きは、国税庁タックスアンサー(令和7年4月1日現在法令等)、リーフレット(令和7年9月)、防衛特別所得税Q&A(令和8年5月)に基づき、2026年8月時点で確認したものです。延滞税の割合は令和8年(2026年)分です。仕訳例は一般的な処理を示したもので、勘定科目や消費税区分は自社の設定・取引内容によって変わります。

#源泉徴収#非居住者#租税条約#越境EC#海外外注

この内容について相談したい場合は

無料相談を申し込む