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コラム

国に税務調査は入りません。では、誰が調べているのか ― 去年、60の税務署が「取り足りない」と指摘されました

2026-08-24/池田 信明

顧問先の方から、雑談の中でこう聞かれたことがあります。

「国って、誰にチェックされてるんですか?」

いい質問だと思いました。会社にも個人にも税務調査は入ります。では、集める側はどうなのか。今回は実務の話ではなく、読み物として書きます。10分ほどおつきあいください。

そもそも国に税務調査は入りません

国に税務調査は入りません。 国は納税者ではないので、申告する相手も、調べに来る相手もいないからです。

ではノーチェックかというと、そうではありません。日本国憲法にこう書いてあります。

第九十条 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。

「すべて毎年」。国が1年間に動かしたお金は、全額が検査の対象です。しかもこの機関は、憲法に名前が書かれています。国会・内閣・裁判所と同じ章立ての中に、会計を検査する機関がわざわざ置いてある。それだけで、ふつうの役所ではないことが分かります。

内閣の下にありません

会計検査院法の一条目は、この一文だけでできています。

第一条 会計検査院は、内閣に対し独立の地位を有する。

検査される側(=国のお金を使う内閣)の指揮下にいたら検査になりません。だから独立させてある、という条文です。

組織の作りも、そのために変わっています。

項目 中身 根拠
意思決定 検査官3人による合議(検査官会議)。1人では決めない 会計検査院法2条
選び方 衆議院と参議院の両方の同意を得たうえで、内閣が任命する 同4条1項
任命の重み 任命するときも辞めさせるときも、天皇が認証する(法律の言葉では「認証官」。大臣や高裁長官と同じ扱いです) 同4条4項
任期 5年。再任は1回まで。満70歳になったら退官 同5条1項・3項
辞めさせられるか 本人の意に反して官を失うことは、原則としてない 同8条
トップの決め方 院長は3人の検査官が話し合って自分たちの中から決める(法律の言葉では「互選」)。内閣は決まった結果を発令するだけ 同3条

内閣が「この人を院長に」と指名できない、というのが地味に効いています。簡単には口を出せない・簡単には辞めさせられないように作ってある。この作りが、次の話につながります。

税務署も、毎年指摘されています

会計検査院が検査するのは「国の収入支出」です。支出だけではありません。収入も見られます。つまり、税金を取る仕事も検査対象です。

会計検査院は、1年分の検査結果を1冊にまとめて公表します(決算検査報告といいます。内閣を通じて国会に提出され、全文がウェブで誰でも読めます)。この報告書に、ほぼ毎年こういう見出しが載ります。

租税の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの[60税務署]

令和6年度(2024年度)決算検査報告 ── 2025年11月に内閣へ送付された、いま最新のものです ── の中身がこれです。

項目 内容
対象 60税務署、納税者106人
徴収不足 113事項 計 379,723,152円(平成30年度~令和6年度=2018年度~2024年度)
徴収過大 1事項 631,200円(令和5年度=2023年度)

「徴収不足」は税務署が取り足りなかったもの、「徴収過大」は取りすぎていたものです。「事項」は指摘の件数だと思ってください。

税目別で最も多いのは法人税(57事項・1億8,853万円)で、以下、申告所得税・消費税・相続税・贈与税と続き、源泉所得税も2事項1,919万円が入っています。

原因は「納税者が申告書等において所得金額や税額等を誤っているのに、これを見過ごし、法令等の適用の検討が十分でなく」などと書かれています。つまり、申告書の誤りを税務署が見落としていた、と指摘されている。

ちなみに源泉所得税の2事項は、退職金から差し引く税率の間違いと、会社が自分の株を買い取ったときに配当を渡したのと同じ扱いになる分(みなし配当)の納付漏れでした。差し引く側の落とし穴は「海外への支払い、20.42%を差し引かずに送ってしまっていませんか」に書きましたが、取る側も同じところで間違えます。

指摘された分は、全額が徴収決定または支払決定の処置が執られた、と報告書に書かれています。放置はされません。

自治体も消費税を申告しています

もうひとつ、知られていない話を挟みます。自治体も消費税を申告しています。

自治体のお金は、住民税などを入れる財布(一般会計)と、水道・下水道・病院・バスのように料金をもらって事業をする財布(特別会計)に分かれています。消費税法60条1項は、この事業ごとの財布を「1社の会社が事業をやっているのと同じ」とみなすと定めていて、水道局や市立病院は民間と同じように申告して納めています。(一般会計のほうは差し引ける消費税を預かった消費税と同額とみなすので納税額が出ず、申告の規定も適用されません。同条6項・7項)

しかも特別会計には、民間にはない計算が乗ります。同条4項の、税金がかかる売上以外の収入(補助金や地方交付税など。法律の言葉では「特定収入」)がある場合に、差し引ける消費税を減らす調整です。この4項は、条文ひとつが句点を挟まず数百字続きます。読んでいて息が続きません。

考え方の芯は単純で、補助金でまかなった買い物の消費税は、自分で負担していないのだから、差し引く側にも回せない、ということです。行政も民間も、同じ条文の同じところでつまずいています。

おまけ:この話が自社に返ってくる場合があります

ここまで完全に他人事として読んでこられたと思うのですが、1つだけ、自社に返ってくる入口があります。補助金です。

会計検査院法23条1項は、必要と認めるときに検査できるものとして、こう挙げています。

三 国が直接又は間接に補助金、奨励金、助成金等を交付し又は貸付金、損失補償等の財政援助を与えているものの会計

補助金を出した先の会計、と書いてあります。相手が民間企業でも同じです。しかも25条には、会計検査院の職員が会社まで来て、帳簿や現物を直接見にくることがある(法律の言葉では「実地の検査」)と書かれていて、「実地の検査を受けるものは、これに応じなければならない」と続きます。断れません。

実際に行われています。令和6年度決算検査報告のものづくり補助金の項目では、155の事業主体(補助金をもらった会社や個人事業主のことです)が実地の検査を受け、5者・計37,382,667円が不当と認められました。

型は3つで、虚偽の実績報告書という意図的なものが1つ、あとの2つはこれです。

  • 導入した機械を、もっぱら他社に使わせていた(1者・10,000,000円)
  • 処分が制限されている財産を、無断で目的に反して使ったり廃棄したりしていた(2者・計9,721,557円)

補助金で買った単価50万円(税抜き)以上の機械は、売る・捨てるだけでなく、目的に反して使うこと、他人に貸すこと、担保に入れることにも承認が要ります(補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律22条。ただし書きで政令の定める場合は除かれます)。制限される期間は、減価償却で使っているあの年数(法定耐用年数)をそのまま当てはめた年数です(法律では「準用する」といいます)。つまり5年、7年と続きます。

補助金の申請をやった担当者が辞めていても、期間のほうは続いています。

心当たりがあれば、交付決定通知書と実績報告書を開いて、単価50万円以上の資産を書き出し、取得年月日+耐用年数がまだ今日を過ぎていない行だけ、いまどこで誰が使っているかを確かめてください。倉庫にしまったまま・別の現場に移した・グループ会社に貸した・壊れたので捨てた、のどれかに当たる行があれば、そこが論点です。ここまでで30分ほどです。

次回

次回はこの補助金の話を実務として扱います。交付要綱に「消費税及び地方消費税に係る仕入控除税額の報告」という条項が入っていることがあります。ざっくり言うと、補助金で買ったものの消費税を確定申告で差し引けた分は、補助金をもらいすぎたことになるので後から返してください、という条項です(差し引けた消費税額を、法律の言葉で「仕入控除税額」といいます)。上で見た自治体の特定収入と、考え方は同じものです。

調べる側も調べられている。知らなくても明日の仕事は回りますが、税務や補助金の話が「お上が一方的に決めていること」ではなく、チェックが二重三重にかかっている仕組みとして見えてきます。制度としては、むしろ健全なほうだと思っています。

根拠にしたページ・条文

#会計検査院#決算検査報告#憲法#補助金

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