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税務

法定調書の電子申告義務、令和9年から「30枚以上」に引き下げ ― うちは関係ないと思っているスタートアップほど数えてほしい理由

2026-08-03/池田 信明

「うちは従業員十数人の会社だから、法定調書の電子申告義務なんて関係ない」。そう思っている経営者・経理担当の方に、一度数えてみてほしい話です。法定調書をe-Tax・光ディスク等・クラウド等のいずれかで提出する義務の基準が、これまでの「100枚以上」から「30枚以上」に引き下げられます。100枚という基準では対象外だった会社でも、30枚なら話が変わってきます。

この記事の前提

基準枚数・施行日は、国税庁タックスアンサーNo.7455「法定調書の提出枚数が100枚以上の場合のe-Tax、光ディスク等又はクラウド等による提出義務」の記載に基づいています。提出対象者の基準額はNo.7411「給与所得の源泉徴収票」、退職所得の源泉徴収票の提出範囲はNo.7421「退職所得の源泉徴収票」、支払調書の基準額はNo.7431「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」、給与所得の源泉徴収票のみなし提出については国税庁「源泉徴収票のみなし提出の特例」特設ページの記載によります。自社が実際に義務化の対象になるかどうかは、法定調書の種類や提出枚数の数え方によって変わるため、最終判断は顧問税理士にご相談ください。

何が変わるのか

  • 現行:法定調書の種類ごとに、前々年に提出すべきであった当該法定調書の枚数が100枚以上の場合、e-Tax・光ディスク等・クラウド等のいずれかでの提出が義務
  • 令和9年1月1日以後の提出分から:この基準が30枚以上に引き下げ

国税庁は基準年の考え方について「令和6年1月の提出枚数が100枚以上であった場合、令和8年1月の提出から義務化される」という例を示しています。前々年の提出実績で判定する仕組みです。同じ考え方に基づけば、令和9年1月提出分については、前々年にあたる令和7年1月提出分の枚数が30枚以上かどうかが判定の基準になります。つまり、すでに提出し終えた過去の法定調書の枚数が、2年後の義務化を左右するということです。「令和9年になってから慌てて数える」のでは間に合わない可能性があります。

なお、義務化の対象となる書類はe-Tax提出であればすべての法定調書、光ディスク等・クラウド等の場合も国外財産調書など一部を除くほとんどの法定調書が対象です。給与所得の源泉徴収票、退職所得の源泉徴収票、支払調書はいずれも対象に含まれます。

ただし、「何を何枚数えるか」は単純ではありません。ちょうど同じ時期に、法定調書の枚数そのものを左右する改正が2つ動いています。

  • 給与所得の源泉徴収票:令和9年1月1日以後の提出分から「みなし提出の特例」が始まり、多くの会社で税務署への別送提出が実質的に不要になります(減る方向)
  • 退職所得の源泉徴収票:令和8年1月1日以後に支払う退職金から提出範囲が「役員のみ」から「全従業員」に拡大されており、すでに施行中です(増える方向)

この2つを踏まえないと、「30枚以上」という基準だけを見て数えても実態とズレます。次の章で、書類の種類ごとに整理します。

判断軸:自社は対象になるか

まず、法定調書は「全従業員分」を税務署に提出するわけではありません。税務署への提出が必要な範囲は、書類の種類ごとに基準が違います。

給与所得の源泉徴収票 ― 「みなし提出」で対象外になる会社が多い

これまで、税務署提出用の給与所得の源泉徴収票は次の基準額を超える人だけが対象でした。

区分 提出対象となる基準額
年末調整をした・法人の役員 年間給与が150万円を超える者
年末調整をした・弁護士や税理士等 年間給与が250万円を超える者
年末調整をした・その他の者 年間給与が500万円を超える者
年末調整をしなかった・扶養控除等申告書を提出し退職や災害で年の中途に退職等した一般職員 250万円を超える者
年末調整をしなかった・同条件の役員 50万円を超える者
主たる給与が2,000万円超で年末調整をしなかった者 全員
扶養控除等申告書を提出しなかった者(乙欄・丙欄適用) 50万円を超える者

表の「弁護士、司法書士、税理士等」は、社内で給与(従業員)として雇っている弁護士・税理士等が対象です。顧問弁護士・顧問税理士のように、外部の専門家に報酬として支払っている場合はこの区分に当てはまりません(この場合は後述の支払調書の対象)。

ここが重要なのですが、令和9年1月1日以後に提出する給与所得の源泉徴収票については、「一定の事項が記載された給与支払報告書」を市区町村に提出していれば、税務署に源泉徴収票を提出したものとみなされる特例が始まります。市区町村への給与支払報告書提出は、従業員を雇っている会社であればもともと行っている手続きです。つまり、きちんと給与支払報告書を提出している会社であれば、上記の基準額を超える人がいても、税務署への別送提出自体が実質的に不要になります。

このため、「30枚以上」の枚数を数えるとき、給与所得の源泉徴収票は多くの会社で対象からほぼ外れると考えてよいでしょう(給与支払報告書に必要事項が正しく記載されているかは、給与計算ソフト側の設定を確認しておく価値があります)。前の版のこの記事では、この点を踏まえずに給与所得の源泉徴収票を中心に枚数を数える例を示していましたが、実態に合わせて修正しています。

退職所得の源泉徴収票 ― 対象が「役員のみ」から「全従業員」に拡大(すでに施行中)

一方で、退職所得の源泉徴収票は事情が逆です。令和8年1月1日以後に支払う退職手当等からは、提出範囲が「法人の役員に限る」から「すべての受給者」に拡大されています。 今日(2026年8月時点)はすでにこの新しい範囲が適用されている期間です。

これまでは、一般の退職者(役員以外)については税務署への提出が不要なケースが多くありました。しかし令和8年中に退職金を支払った相手が一般の従業員であっても、今後は原則として提出対象になります。離職率が高い会社ほど、この枚数が積み上がりやすいという点は見落とされがちです。

支払調書(報酬・料金等)の対象例

社外のライターやデザイナーへの支払いも、種類によっては同一人への年間支払額が一定額を超えると支払調書の対象になります。国税庁の例では、原稿料・画料・講演料等は同一人年間5万円を超えると対象です。一方で、一般的なシステム開発の業務委託料がどの区分に当たるかはケースバイケースで、明確に列挙されていないため、外部エンジニアへの業務委託料については個別に税理士へ確認することをおすすめします。

具体例で数えてみる

架空のSaaSスタートアップ(社員35名、役員3名)で、法定調書の枚数を種類ごとに数えてみます。給与支払報告書をきちんと市区町村に提出している前提なので、給与所得の源泉徴収票はみなし提出の対象とし、ここではカウントしません。

  • 給与所得の源泉徴収票:みなし提出の対象 → 0枚(給与支払報告書への記載内容は要確認)
  • 退職所得の源泉徴収票(令和8年中に退職金を支払った、役員以外を含む全退職者):8名 → 8枚
  • 広報記事を依頼している外部ライターへの原稿料(年間8万円):1名 → 1枚
  • ロゴ・バナー制作を依頼している外部デザイナーへのデザイン料(年間12万円):2名 → 2枚

合計すると 11枚。このケースでは「30枚以上」の基準にはまだ届きません。ただし、この数字を左右するのは主に退職者の人数外部への継続的な支払いの件数です。離職率が高い年、あるいは複数の外部ライター・デザイナー・専門家への支払いが増える年は、この枚数が積み上がります。同じ会社でも「静かな年」と「退職者が重なった年」とでは枚数が大きく変わりうる、という点が実務上のポイントです。

対象になったらどうする

  • 給与支払報告書が「一定の事項」を満たして市区町村に提出できているか、給与計算ソフト・顧問税理士に確認する(満たしていれば給与所得の源泉徴収票はみなし提出の対象)
  • 退職所得の源泉徴収票は、令和8年以降の退職者について役員以外も含めて漏れなく作成・提出できているか確認する
  • 直近で提出した退職所得の源泉徴収票・支払調書の枚数を種類ごとに数える(種類ごとに別々に30枚基準が判定される点に注意)
  • 30枚以上になりそうな種類があれば、令和9年1月提出分に向けて、e-Tax・光ディスク等・クラウド等いずれかでの提出方法を今のうちに決めておく
  • 対応方法が未定なら、顧問税理士や税務署に相談し、提出方法の切り替えに必要な準備期間を確保する

よくある誤解

Q. 給与所得の源泉徴収票がみなし提出になるなら、もう30枚基準は気にしなくていいですよね? A. いいえ。みなし提出の対象になるのは給与所得の源泉徴収票だけです。退職所得の源泉徴収票(すでに全従業員が対象)や支払調書は従来どおり税務署への提出・枚数のカウントが必要です。「一つの書類が減ったから安心」ではなく、書類ごとに確認してください。

Q. 従業員全員分の源泉徴収票を税務署に提出しないといけないんですよね? A. 給与所得の源泉徴収票については、みなし提出の対象になれば税務署への別送自体が不要になります。一方、退職所得の源泉徴収票は令和8年以降、役員以外の一般従業員も含めて原則全員が対象です。書類の種類によって扱いが違う点に注意してください。

Q. 100枚基準で対象外だったから、今後も安心ですよね? A. 令和9年1月1日以後の提出分からは基準が30枚以上に下がるため、これまで対象外だった会社が新たに対象になるケースが増えると見込まれます。「今まで関係なかった」は令和9年以降の判断材料にはなりません。

Q. 紙で提出したらどうなるんですか? A. この記事では罰則の有無までは踏み込みません。義務化の対象になった場合の具体的な取り扱いは、所轄の税務署にご確認ください。

除外した選択肢

「対象になるかわからないから、とりあえず全部e-Tax対応にしておけばいい」という考え方もあります。ただし提出方法の切り替えには、給与計算・支払調書作成の運用フローの見直しや担当者の習熟が必要で、対象外の会社が先回りして切り替えるコストは軽くありません。この記事では、まず自社が対象になるかどうかを枚数ベースで具体的に見積もることを優先しました。

まとめ

  • 法定調書のe-Tax等提出義務の基準が、令和9年1月1日以後の提出分から「100枚以上」から「30枚以上」に引き下げられる
  • 判定は前々年の提出枚数が基準になるため、今の実績がそのまま2年後の義務化を左右する
  • 給与所得の源泉徴収票は、同じ令和9年1月1日以後の提出分から「みなし提出の特例」により、多くの会社で税務署への別送提出が不要になる
  • 退職所得の源泉徴収票は、令和8年1月1日以後に支払う退職金から対象が役員のみから全従業員に拡大済み。支払調書とあわせて、この2種類が30枚基準を左右しやすい
  • 対象になりそうな会社は、令和9年1月提出分に向けて提出方法を今のうちに準備しておく

参考

自社の法定調書が実際に何枚提出対象になるか、提出方法の切り替えが必要かどうかは、事業の状況によって異なります。詳細は個別にご相談ください。

#法定調書#電子申告#e-Tax#源泉徴収票#スタートアップ

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