「1万円以下は免税」が崩れる ― 令和10年4月、越境ECの少額輸入貨物にも消費税とプラットフォーム課税が広がる話
「海外のサイトで1万円以下のものを買えば消費税がかからない」。この感覚、越境ECに関わっている方なら一度は意識したことがあるはずです。逆に言えば、国内のEC事業者からすると、同じ商品を売っていても海外の競合サイトのほうが消費税分だけ安く見えてしまう、という不利な立場に置かれてきました。
令和8年度税制改正で、この構造に手が入ります。通信販売で海外から国内に届く1万円以下の物品について、消費税の課税関係が見直され、あわせてプラットフォーム課税の対象が物品にも広がります。施行は令和10年4月1日で、まだ先の話に見えますが、越境で仕入れているEC事業者や、マーケットプレイスを運営しているIT事業者にとっては、価格設計や自社の該当性を早めに確認しておく価値がある改正です。
この記事の前提
本記事は2026年8月時点で公表されている財務省「令和8年度税制改正の大綱」および国税庁の情報をもとに整理しています。具体的な取扱いの細目(通達・Q&A等)は今後さらに公表される見込みのため、確認できた数値・時期のみを記載し、断定できない点はその旨を明記しています。個別の取引への当てはめは、必ず所轄税務署または顧問税理士にご確認ください。
何が変わるのか:「1万円以下は免税」という前提そのもの
現行制度では、海外から通信販売の方法で国内に発送される物品のうち、課税価格が少額のものは輸入時の消費税が原則としてかからない扱いになっています。この「少額免税」を前提に、海外の販売価格や仕入価格を設計している事業者は少なくありません。
令和8年度税制改正では、この扱いを見直すため「特定少額資産の譲渡」(仮称)という区分が新設されます。財務省の税制改正大綱によれば、通信販売の方法により国内以外の地域から国内に宛てて発送される資産の譲渡のうち、一の資産の対価の額が1万円(税抜き)以下のものについて、消費税の課税の対象とする、とされています。施行は令和10年4月1日です(名称は大綱時点の仮称であり、今後の法案審議で変わる可能性があります)。
ここで重要なのは、無条件に二重課税になるわけではなく、一定の条件付きで輸入消費税を課さない措置も用意されている点です。大綱によれば、この不課税措置の対象になるのは、海外の販売事業者があらかじめ「特定少額資産販売事業者」として登録を受けており、かつ輸入申告書等(郵便物の場合は税関告知書)にその登録番号などが付記されている場合に限られます。登録を受けていない海外事業者からの購入や、登録番号の付記がない場合は、この不課税措置の対象外になり得るため、「1万円以下は一律に販売時課税・輸入時不課税に置き換わる」と単純化しすぎないほうが安全です。仕組みとしては、税を取る場所が輸入時から販売時に移るケースが新たに生まれる、と理解するのが実態に近いイメージです。
なぜ変わるのか:国内事業者との競争条件の不均衡
背景にあるのは、越境ECの急増です。海外事業者から少額の商品を直接購入する場合は消費税がかからない一方、同じ商品を国内事業者から購入すれば消費税がかかる、という価格差が生まれ続けてきました。この不均衡は財務省の審議会でも課題として取り上げられており、今回の見直しは、国内外の事業者間で消費税の扱いを揃えることが狙いです。「海外から買えば必ず安い」という前提が薄れる方向の改正、と捉えると分かりやすいと思います。
プラットフォーム課税も物品に拡大される
もう一つの柱が、プラットフォーム課税の対象拡大です。
現行のプラットフォーム課税制度は、国外事業者がデジタルプラットフォーム(アプリストアやオンラインモールなど)を介して行う電気通信利用役務の提供(アプリ配信、電子書籍・音楽配信などの消費者向けデジタルサービス)を対象に、令和7年4月1日から既に始まっています。一定の要件を満たす「特定プラットフォーム事業者」が、国外事業者に代わって申告・納税を行う仕組みです(国税庁タックスアンサー No.6568「プラットフォーム課税」)。
令和8年度税制改正では、この既存制度の呼称を「第1種プラットフォーム事業者」(仮称)に変更したうえで、新たに物品の譲渡(先述の特定少額資産の譲渡を含む)を対象とする「第2種プラットフォーム事業者」(仮称)制度を創設します。財務省の大綱によれば、対象となる資産の譲渡の対価の額の合計額が、その課税期間中に50億円(税込み)を超える場合に、国税庁長官への届出義務が生じ、指定を受けることになります。
指定のタイミングには経過措置があり、令和9年1月1日から3月31日までの実績に4を乗じた金額が50億円を超えるかどうかで届出義務の判定を行い、指定の効力は施行日と同じ令和10年4月1日に生じることとされています。
なお、これとは別に、輸入消費税の不課税措置の適用を受けたい海外の販売事業者向けの「特定少額資産販売事業者」の登録申請の受付が、令和9年10月1日から始まる見込みです。この登録は第2種プラットフォーム事業者の指定とは別の手続きなので、混同しないよう注意してください(プラットフォーム経由の場合は、プラットフォーム側が指定を受ける形になります)。
誰に関係するのか
読者層に当てはめると、影響の出方は大きく3パターンに分かれます。
| 立場 | 影響の方向 | 今からできること |
|---|---|---|
| 国内で商品を販売しているEC事業者(海外の少額輸入品と価格競合している) | 追い風。海外との価格差が縮小する可能性 | 特に対応は不要。競合の価格動向を観察しておく程度でよい |
| 海外拠点・海外倉庫から少額商品を直送するかたちで販売しているEC事業者 | 逆風。仕入コストに消費税相当額が転嫁される可能性 | 仕入価格・粗利率をシミュレーションし直す。まとめ発送や国内在庫化への切り替えを検討する |
| 自社でマーケットプレイス・ECモール的なプラットフォームを運営しているIT事業者 | 取引規模次第で届出・納税義務が新設される | 令和9年1〜3月の物品取引実績を早めに把握し、年換算で50億円を超えそうか試算しておく |
なお、2番目のパターンについては注意が必要です。この規定で消費税の納税義務を負うのは、あくまで「資産の譲渡を行う事業者」(海外事業者、または関与するプラットフォーム事業者)です。国内のEC事業者が単に海外から仕入れて転売しているだけであれば、自らが直接この規定の納税義務者になるわけではありません。ただし、海外拠点を自社で持ち、そこから直接消費者に発送するような一体的な事業形態を取っている場合は、自社が「資産の譲渡を行った事業者」に該当するかどうかの判断が必要になります。この線引きは事業の実態によって変わるため、該当しそうな場合は個別に確認することをおすすめします。
具体的な事例
雑貨をオンライン販売しているB社を例に考えます。B社は中国の提携工場から1点あたり税抜8,000円のアクセサリーを仕入れ、工場から日本の消費者へ直接発送する「直送転売」の形態を取っているとします。
現行制度では、この取引は課税価格1万円以下の少額輸入貨物にあたるため、輸入時の消費税は原則かかりません。B社は消費税分を意識せずに価格設計ができていました。
令和10年4月以降は、この譲渡が特定少額資産の譲渡に該当し得るため、販売を行う海外の工場側(あるいはB社が海外拠点を通じて自ら販売主体となっている場合はB社自身)に消費税の申告・納税義務が生じる可能性があります。工場側がこれを商品価格に転嫁してくれば、B社の仕入原価は実質的に消費税相当額だけ上昇します。8,000円の商品であれば、単純計算で800円程度の負担増が想定水準です。
薄利多売型のビジネスモデルほど、この800円が利益率に直結します。B社のように直送転売モデルを取っている事業者は、施行までの期間に、仕入先との価格交渉・まとめ発送への切り替え・国内倉庫を経由するモデルへの移行などを比較検討しておく必要があります。
仕入先の海外事業者が登録・申告してこなかったらどうなるか
ここまでの説明は、海外の販売事業者が素直に「特定少額資産販売事業者」として登録し、消費税を申告・納税してくれることが前提になっています。しかし実際には、日本の税務当局が海外の小規模事業者一社一社に登録・申告を徹底させるのは簡単ではありません。B社のように海外の工場や個人事業者から直接仕入れている場合、その仕入先が登録・申告しないまま取引を続けるケースは十分に想定されます。
この場合に何が起きるかについて、財務省の税制改正大綱や国税庁の公表資料を確認した限りでは、未登録の海外事業者が行った取引の扱いを明示的に述べた記述は見当たりませんでした。分かっているのは、輸入時消費税を課さない措置が「登録を受けており、かつ輸入書類に登録番号が付記されていること」を条件とする特典として設計されている、という点までです。
ここから先は一次情報での裏付けが取れていない推測ですが、条件を満たさなければ免除措置の対象外になるだけで、消費税自体が課されなくなるわけではなく、保税地域から貨物を引き取る者(=受取人・輸入者)に輸入消費税が課されるという、消費税法の原則的な取扱いに戻る可能性があります。これは目新しい話ではなく、現行制度でも1万円を超える輸入品には同じ理屈で通関時に消費税がかかり、国際宅配便業者(DHL・FedEx・日本郵便など)が配達時に受取人から徴収するのが通常の運用です。未登録の海外事業者からの少額貨物も、この通常ルートに乗る可能性があります。
もしこの推測どおりだとすると、直送転売型のEC事業者にとっての実務リスクは、単なるコスト増にとどまりません。
- 商品価格への転嫁という形ではなく、通関の段階で不意に課税・徴収され、配達の遅延や追加の事務対応が発生するリスクがある
- 受取人が消費者(B社の顧客)である場合、注文時に想定していなかった消費税を配達時に請求されることになり、クレームや受取拒否につながりかねない
- B社自身が輸入者として貨物を受け取る形態(自社倉庫でまとめて受け取ってから国内発送するなど)であれば、価格転嫁より通関コストの方が管理しやすい可能性がある
なお、取引額が大きい大手プラットフォーム経由の販売については、個々の海外事業者が登録・申告するかどうかにかかわらず、第2種プラットフォーム事業者(プラットフォーム側)が納税義務者になる仕組みが用意されています。これはまさに「個々の海外事業者の遵守をあてにできない」問題への対策と考えられ、逆に言えば、プラットフォームを介さない直接取引や、届出基準に満たない小規模なモール経由の仕入れほど、この未登録リスクが残りやすい構造になっています。
この論点は施行(令和10年4月)までにガイドライン等で明確化される可能性が高い部分です。直送転売型のビジネスモデルを取っている場合は、仕入先の登録状況を確認できる体制を整えておくとともに、続報を注視することをおすすめします。
現行と令和10年4月以降の比較
| 項目 | 現行 | 令和10年4月以降 |
|---|---|---|
| 1万円以下の輸入物品への消費税 | 輸入時、原則免税 | 販売時に課税(特定少額資産の譲渡)。登録済みの海外事業者による特定少額資産の譲渡等、一定の条件を満たす場合のみ輸入時は不課税 |
| 納税義務者 | (免税のため発生しない) | 資産の譲渡を行う事業者、または関与する第2種プラットフォーム事業者 |
| プラットフォーム課税の対象 | デジタルサービスのみ(第1種、令和7年4月〜) | デジタルサービス+物品(第2種を新設) |
| 第2種の指定基準 | ― | 対象取引の対価合計額が課税期間中50億円(税込)超 |
| 施行・効力発生日 | ― | 令和10年4月1日 |
| 特定少額資産販売事業者の登録受付開始 | ― | 令和9年10月1日(見込み) |
よくある誤解
誤解1:関係あるのは海外事業者だけで、国内のEC事業者には無関係
制度上の納税義務者は海外事業者や第2種プラットフォーム事業者ですが、コストは仕入価格を通じて国内のEC事業者側にも波及します。「自分は申告義務を負わないから関係ない」と切り離して考えると、価格戦略の見直しが遅れるおそれがあります。
誤解2:1万円という基準は注文単位で判定される
大綱の表現は「一の資産の対価の額」であり、原則は商品(資産)単位での判定と読めます。ただし、まとめ発送時の実務上の取扱いなど細目については、今後の通達・Q&Aで明確化される部分が残っています。現時点で断定はできないため、まとめ買い・分割発送を前提にした対策は、詳細が固まってから検討することをおすすめします。
まとめ
- 令和8年度税制改正により、通信販売で海外から届く1万円(税抜)以下の物品(特定少額資産の譲渡・仮称)が、令和10年4月1日から消費税の課税対象になる。海外事業者が「特定少額資産販売事業者」として登録し、輸入書類に登録番号を付記するなど一定の条件を満たす場合に限り、輸入時消費税は課されない
- 背景には、少額免税を利用した海外事業者と国内事業者の間の競争条件の不均衡がある
- プラットフォーム課税も物品に拡大され、既存のデジタルサービス向け制度は「第1種」、新設の物品向け制度は「第2種プラットフォーム事業者」(いずれも仮称)となる。指定基準は課税期間中の対象取引額が50億円(税込)超
- 第2種プラットフォーム事業者は、令和9年1〜3月の実績を4倍した金額で経過措置的に判定し、指定の効力は施行日と同じ令和10年4月1日に生じる。これとは別に、特定少額資産販売事業者の登録受付が令和9年10月1日から始まる見込み
- 影響を受けるのは、海外拠点から少額商品を直送転売しているEC事業者と、取引規模が大きいプラットフォーム運営者。国内完結型のEC事業者にとってはむしろ競争条件が改善する方向の改正
- 仕入先の海外事業者が登録・申告しなかった場合の扱いは一次情報に明示の記述がない。輸入消費税の原則(引き取る者への課税)に戻り、通関段階で受取人が徴収される可能性があるという推測にとどまるため、断定はできない
- 1万円の判定単位や細かい実務上の取扱いなど、まだ通達等で明確化されていない部分もあるため、施行までの間に続報を確認する必要がある
自社の取引形態がどの区分に当てはまるか、特に海外拠点を持つ場合や取引規模が大きい場合は、判断が分かれやすい部分ですので、詳細は個別にご相談ください。
参考(一次情報)
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