少額減価償却資産の特例、30万円から40万円へ ― 施行後も残る実務の落とし穴
スタートアップやフリーランスエンジニアが機材を買うとき、「30万円未満なら一括で経費にできる」という話を聞いたことがある方は多いと思います。少額減価償却資産の特例と呼ばれる制度です。この基準額が、2026年4月1日から40万円未満に引き上げられました。
ところが本稿執筆時点(2026年7月)で確認する限り、国税庁のタックスアンサーのページ本文にはまだこの引き上げが反映されておらず、従来の「30万円未満・令和8年3月31日まで」という記述のままです。制度はすでに変わっているのに、参照先の公式ページの更新が追いついていない。しかもこの特例は「事業年度」ではなく「資産の取得日」を基準に新旧の基準が切り替わるため、同じ事業年度の中に30万円基準の資産と40万円基準の資産が混在するケースが出てきます。この記事では、確定した改正内容を整理したうえで、施行後の実務で見落としやすいポイントをまとめます。
この特例で何ができるのか(現行制度のおさらい)
国税庁の公表内容によれば、現行の少額減価償却資産の特例は次のような制度です。
- 対象は「中小企業者等」(青色申告書を提出する法人で、常時使用する従業員数が500人以下。一部の大規模法人の子会社などを除く)
- 取得価額が30万円未満の減価償却資産を取得し、事業の用に供した場合、その全額をその年(事業年度)の経費に算入できる
- ただし、1年間に適用できる取得価額の合計額には300万円という上限がある
- 対象期間は平成18年4月1日から令和8年3月31日までに取得したものとされている
- 令和4年4月1日以後に取得したもののうち、貸付の用に供したものは対象から除外されている
- 所得税についても同様の措置があり、青色申告の個人事業主も利用できる
通常の減価償却では、10万円以上の資産は耐用年数に応じて数年に分けて費用化する必要があります。この特例は「30万円未満ならその年に一気に経費化してよい」という時限的な例外措置で、事務負担の軽減と中小企業・個人事業主の設備投資を後押しする目的で作られています。
2026年度税制改正で確定した内容
令和8年度税制改正により、この特例は次のとおり見直されました。2026年4月1日以後に取得し、事業の用に供した資産から適用されています。
- 対象となる資産の取得価額の基準が、30万円未満から40万円未満に引き上げられた
- 適用期限が3年延長された(令和11年〈2029年〉3月31日まで)
- 対象法人の従業員数要件が、常時使用する従業員数「500人以下」から「400人以下」に引き下げられた
- 1年間に適用できる取得価額の合計額の上限は、これまでどおり300万円のまま変更なし
ポイントは、この基準の切り替えが「事業年度」単位ではなく「資産の取得日」単位で行われることです。3月決算の法人であれば、同じ事業年度の中に「4月1日より前に取得した資産(30万円基準)」と「4月1日以後に取得した資産(40万円基準)」が混在する可能性があります。個人事業主のように1〜12月が事業年度の場合は影響が小さいものの、法人で決算月が3月以外の場合は特に注意が必要です。
なお、国税庁のタックスアンサー(No.5408)のページ本文は本稿執筆時点でもまだ更新されておらず、旧基準の記述のままです。実際に適用する際は、ページ本文の記載日付や更新状況を確認したうえで、必要に応じて顧問税理士に最新の取り扱いを確認してください。
実務でつまずくポイント:同じ事業年度に新旧基準が混在する
決算月が3月ではない法人や、期の途中で経理を担当し始めた場合に見落としやすいのが、この取得日基準の切り替えです。
ケース: 決算月が9月のIT企業が、2025年10月〜2026年9月の事業年度中に、業務用PCを2台購入した。1台目は2026年2月に32万円で、2台目は2026年5月に35万円で取得した。
- 1台目(2026年2月取得):取得日が施行日(4月1日)より前のため、旧基準(30万円未満)が適用される。32万円は基準を超えるため、この特例は使えず、通常の減価償却で数年に分けて費用化する
- 2台目(2026年5月取得):取得日が施行日以後のため、新基準(40万円未満)が適用される。35万円は基準内のため、この特例で全額をその事業年度の経費に算入できる
同じ事業年度・同じ「30万円台のPC購入」でも、取得日が施行日の前か後かで扱いがまったく変わります。経理担当者が「今期はまとめて30万円基準で処理すればいい」と思い込んでいると、2台目を誤って通常の減価償却に回してしまい、本来使えたはずの一括経費算入を逃すことになります。期をまたぐ資産台帳を作るときは、取得日ごとに適用基準を確認する欄を設けておくと安全です。
判断軸の比較表
少額の設備投資をどう経費化するか、主な選択肢を並べると次のようになります。
| 方法 | 対象となる取得価額 | 経費化のタイミング | 年間上限 |
|---|---|---|---|
| 少額減価償却資産の特例 | 40万円未満(2026年3月末までの取得分は30万円未満) | 取得した年に全額 | 合計300万円まで |
| 一括償却資産 | 20万円未満 | 3年間で均等に償却 | 上限なし |
| 通常の減価償却 | 10万円以上 | 耐用年数に応じて複数年 | 上限なし |
| 少額の減価償却資産(即時償却) | 10万円未満 | 取得した年に全額 | 上限なし |
同じ「30万円台〜40万円未満の資産」でも、取得日が2026年4月1日の前か後かで、少額減価償却資産の特例が使えるかどうかが変わります。特例が使えない金額帯(取得日が施行日前なら30万円以上、施行日以後なら40万円以上)の資産は、一括償却資産や通常の減価償却を検討することになります。
よくある誤解・Q&A
Q. 個人事業主でも使える制度ですか? A. はい。国税庁の説明では所得税についても同様の措置があるとされており、青色申告をしている個人事業主も対象です。白色申告の場合は対象外になるため、この特例を使いたい場合は青色申告への切り替えを検討する必要があります。
Q. 40万円ちょうどの資産は対象になりますか? A. 「40万円未満」なので、ちょうど40万円の資産は対象外です(2026年4月1日以後取得分の場合)。消費税の税込・税抜どちらで判定するかは、その事業者が採用している経理方式(税込経理・税抜経理)に合わせるのが基本的な考え方です。判定に迷う金額の場合は、購入前に確認しておくと安心です。
Q. 1年間に何個でも特例を使えますか? A. 個数の制限はありませんが、合計額に300万円という上限があります。この上限は今回の改正でも変わっていません。複数の機材をまとめて購入する予定がある場合は、年間の合計額が上限を超えないか事前に試算しておくとよいでしょう。
今、何を確認すればいいか
新基準はすでに2026年4月1日から施行されていますが、国税庁のタックスアンサー本文のような一次情報の更新にはタイムラグが生じることがあります。実務で判断するときは、次の順番で確認することをおすすめします。
- 購入した(または購入予定の)資産の取得日を確認する。施行日(2026年4月1日)の前か後かで基準が変わる
- 資産台帳や固定資産管理表に、取得日ごとの適用基準(30万円未満/40万円未満)を記録しておく
- 判断に迷う場合や、期をまたぐ資産が多い場合は、顧問税理士に取得日ベースでの整理を相談する
制度が変わった直後は、参照している情報がいつ時点のものかを意識するだけで、思わぬ見落としを防げます。
少額減価償却資産の特例の適用可否や、具体的な資産の判定については個別の状況によって異なります。詳細は個別にご相談ください。
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