100万円を超える買い物は、発注の前に一声ください ― 消費税の納め方が3年ぶん動かせなくなることがあります
設備投資の相談で、いちばん聞かれないのに、いちばん後から効いてくる質問があります。「その買い物、税抜でいくらになりますか」です。
先にお願いだけ書きます。税抜100万円を超える買い物をするときは、発注する前に税理士に一声かけてください。 それだけで防げることが、消費税にはあります。
なぜかというと、大きな買い物をすると消費税の納め方が数年ぶん動かせなくなるからです。しかも分かれ目の金額が1,000万円と100万円の2本あり、どちらに当たるかは買い物の値段だけでは決まりません。何年も前に出したかもしれない届出1枚で、同じ買い物でも結論が逆になります。
この記事は、その仕組みと、発注の前に自分で数えられるところまでを書きます。
そもそも、消費税の納め方は1つではありません
「うちの消費税は誰かが計算してくれている」で済ませている方が多いのですが、実は納め方が何通りかあって、どれで計算するかで納める額が変わります。
国内向けの売上が税込1,100万円(お客さんから預かった消費税は100万円)の小売業で、仕入れや経費で実際に払った消費税が60万円だった年を例にします。
| 納め方 | この例の納税額 | 計算のしかた |
|---|---|---|
| 原則課税 | 40万円 | 預かった100万円 − 実際に払った60万円 |
| 簡易課税 | 20万円 | 預かった100万円 − 100万円×80%(小売業の場合の割合) |
| 2割特例 | 20万円 | 預かった100万円 × 2割 |
| 3割特例 | 30万円 | 預かった100万円 × 3割 |
同じ売上・同じ仕入れでも、これだけ変わります。それぞれ誰が使えるかは次のとおりです。
- 原則課税 … 何も届出をしていなければ基本これです。国税庁の書類では「一般課税」、マネーフォワードクラウドの画面では「原則課税」と表示されます。税理士が「本則課税」と言うこともありますが、どれも同じものです
- 簡易課税 … 2年前の売上が5,000万円以下で、事前に届出書を出した人だけが使えます。実際に払った額は見ずに、業種ごとに決められた割合(みなし仕入率。小売業なら80%、サービス業なら50%)で仕入れを計算したことにします
- 2割特例 … インボイス登録で免税事業者から課税事業者になった人向けの経過措置。令和8年(2026年)9月30日までの日が属する期で終わります
- 3割特例 … 2割特例の後継。個人事業者だけが令和9年分・令和10年分(2027年分・2028年分)の2年間使えます。インボイス登録をきっかけに課税事業者になった人も、課税事業者選択届出書を出してなった人も対象です
大きな買い物が効くのは、原則課税だけです
ここが、この記事全体の土台です。上の表で実際に払った消費税を見ているのは、原則課税だけです。
つまり、1,100万円の機械を買った期は、原則課税なら払った100万円ぶん納税が減り、預かった額より多ければ還付になります。簡易課税・2割特例・3割特例では、いくら買っても納税額は1円も変わりません。
そして納め方は、毎年自由に選び直せるわけではありません。事前の届出が要るもの、対象者が決まっているもの、そして過去の買い物によって数年間ふさがれるものがあります。最後のひとつが、この記事の話です。
もう2つだけ言葉を。売上が小さいと消費税の申告と納付そのものが免除されます。この状態の人を免税事業者、申告と納付をする人を課税事業者といいます(法律の言葉では、この免除の仕組みを「事業者免税点制度」といいます)。
結論を先に
- 税抜100万円を超える買い物は、発注する前に税理士に一声かけてください。 分かれ目が1,000万円と100万円の2本あり、どちらに当たるかは金額だけでは決まりません
- 税抜1,000万円以上(標準税率10%なら税込1,100万円以上)のものを一度の取引で買うと、買った期を含めて3期、原則課税でしか申告できません。売上が下がっても免税事業者に戻れず、簡易課税も選べず、3割特例も使えません(消費税法12条の4第1項、消費税法施行令25条の5第1項)
- 1,000万円未満でも、課税事業者選択届出書を出している人は100万円から同じような縛りがかかります。開業して1〜2年目がいちばん重なりやすい立場です
- ただし、買った期にすでに簡易課税や2割特例・3割特例で申告していた場合は、どちらの縛りも発動しません。効くのは原則課税で買ったときだけです
この記事は、どこまであなたの話か
先に立ち位置をはっきりさせます。当てはまるところだけ読んでも構いません。
- 売上のほとんどが海外向け(輸出中心)の方 … 影響は小さいです。理由はあとの「輸出中心の会社は、実はあまり困らない」に書きました。ただし1点だけ、売上が縮んでも消費税の申告をやめられなくなることは知っておいてください
- 国内販売と越境ECが半々くらいの方 … この記事はあなた向けです。 原則課税と簡易課税・3割特例の有利不利を毎年比べているなら、比べる権利そのものが3期ぶん消えます
- 個人事業者で、令和9年分(2027年分)から3割特例を使うつもりの方 … 発注の前に必ず読んでください。 タイミング次第で、使える2年がまるごと消えます
- 開業して1〜2年目の方 … 金額の分かれ目が1,000万円ではなく100万円に下がることがあります。 まとまった設備投資が開業初年度に集中しやすいぶん、いちばん当たりやすい立場です。「1,000万円未満なら安心、ではありません」を読んでください
- 法人の方 … 3割特例は個人事業者だけの制度なので関係ありません。ただし免税事業者に戻れないことと簡易課税を選べないことは同じように効きます
何が「1,000万円以上のもの」に当たるのか
対象は2つです。どちらも、消費税を除いた金額で数えます。
| 種類 | 中身 | 越境EC・輸出の現場でよくある例 |
|---|---|---|
| 在庫(法律の言葉では「棚卸資産」) | 売るために仕入れた商品そのもの | コンテナ単位の一括仕入れ、限定品のまとめ買い、OEMの初回ロット |
| 1つ(1組)100万円以上の、売り物ではない資産(同じく「調整対象固定資産」) | 建物、機械装置、車両、工具・器具・備品、ソフトウェアなど | 倉庫の棚・ラック一式、自動梱包機、フォークリフト、受注管理システム |
見落とされやすいのは在庫が入っていることです。「1,000万円の縛り」と聞くと不動産や機械の話だと思われがちですが、条文は棚卸資産をはっきり並べています。一度の発注で1,000万円以上を仕入れる商売なら、機械を一台も買っていなくても対象になります。
売り物ではない資産のほうには「1つ100万円以上」という枠がかかっています。つまり、1台30万円のパソコンを40台まとめて買って合計1,200万円になっても、1台あたりが100万円未満なので、そもそも対象の資産に当たりません。
1台ずつ数えるのか、まとめて数えるのか
条文は「一の取引の単位(通常一組又は一式をもつて取引の単位とされるものにあつては、一組又は一式)」ごとに数えると書いています(消費税法施行令25条の5第1項第1号)。この「一の取引の単位」という言い方は、さきほどの調整対象固定資産の側(消費税法施行令5条)にもそのまま出てきます。そちらの判定のしかたは国税庁の内部向けのルール(法令解釈通達)に書かれていて、文言が同じなので、高額特定資産でも同じ考え方で判定します。ざっくり言うと、機械は1台ごと、道具や備品は1セットごと、電柱のように単体では役に立たないものはひとまとまりで数えます。原文はこうです。
機械及び装置にあつては1台又は1基、工具、器具及び備品にあつては1個、1組又は1そろい、構築物のうち例えば枕木、電柱等単体では機能を発揮できないものにあつては社会通念上一の効果を有すると認められる単位ごとに判定する(消費税法基本通達12-2-3「一の取引の判定単位」)
よく聞かれるのが「請求書を2枚に分けてもらえば1,000万円未満になりますか」です。ここは正直に書きます。
条文が見ているのは取引のまとまりであって、請求書の枚数でも支払回数でもありません。倉庫のラックを何本買おうと、それが一式の設備として設計され、まとめて発注し、まとめて据え付けるものであれば、紙が何枚に分かれていても一組・一式として数えられる可能性が高い、という読み方になります。
逆に、もともと別々に使える別々の機械を、たまたま同じ日に同じ業者から買っただけであれば、1台ごとに数えます。フォークリフト1台500万円を2台買った場合、それぞれが独立して動く機械なので、合計1,000万円でも1台ごとの判定です(ただし1台100万円以上なので、別の話が残ります。後の「1,000万円未満なら安心、ではありません」に書きました)。
ここは事実関係で決まる部分が大きく、記事の中で「この場合はこう」と言い切れる範囲を超えます。設計上ひとまとまりか、別々に使えるかを先に整理したうえで、発注前に個別にご相談ください。実態と違う分け方をしても、後から実態どおりに判定されるだけです。
内装・システム開発を分割発注した場合は、合計額で数えます
倉庫の内装を職人ごとに手配した、自社の在庫管理システムを何回かに分けて外注した。こういう「自分で建設・製作した」扱いになるケースは、一度の取引ではなくかかった費用の累計で判定します(消費税法12条の4第1項のかっこの中、消費税法施行令25条の5第2項)。材料費と経費の累計が税抜1,000万円以上になった時点で対象です。なお、この累計には、免税事業者だった期間や、簡易課税・2割特例で申告する期間に発注した分は入れません(消費税法施行令25条の5第1項第2号)。
分割発注が普通の世界なので、気づかないうちに超えていることがあります。しかも縛りの終わり方が違います。
| 買ってきた場合 | 分けて作らせた場合 | |
|---|---|---|
| 判定のしかた | 取引のまとまりごとに税抜1,000万円以上 | かかった費用の累計が税抜1,000万円以上 |
| 縛りが始まる期 | 仕入れた日が属する期の翌期 | 累計が1,000万円以上になった日が属する期の翌期 |
| 縛りが終わる期 | 仕入れた日が属する期の初日から3年を経過する日が属する期 | 完成した日が属する期の初日から3年を経過する日が属する期 |
作るのに時間がかかるほど、終わりが後ろにずれていきます。
期間の数え方 ― 具体例で
条文の言い方は「仕入れ等の日の属する課税期間の翌課税期間から、仕入れ等の日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで」です。読みにくいので、日付を入れます。ここでいう「課税期間」は、法人なら事業年度、個人事業者なら1月1日から12月31日までのことです。
条文が「翌課税期間から」と書いているのに、この記事が「買った期を含めて3期」と言っているのは、矛盾ではありません。買った期はもともと原則課税だったから、この縛りが発動しているからです(条文は「簡易課税の適用を受けない課税期間中に」買った場合を対象にしています)。制度が新たに選択肢を奪うのは翌期からの2期ですが、申告する側から見れば、買った期とあわせて3期続けて原則課税になります。発注前に数えるのはこちらの3期です。
【法人の方】例1:12月決算の法人が、令和8年(2026年)10月に倉庫の自動梱包機と棚を一式1,320万円(税込・標準税率10%)で導入した
税抜にすると1,200万円です。1,000万円以上なので対象になります。
- 仕入れた日が属する期:令和8年12月期
- その初日:令和8年1月1日
- そこから3年を経過する日:令和10年12月31日
- その日が属する期:令和10年12月期
したがって、条文が選択肢を奪うのは令和9年12月期と令和10年12月期(2027年・2028年の決算)です。買った令和8年12月期ともあわせて、令和8年12月期から令和10年12月期までの3期が原則課税になります。
【個人事業者の方】例2:令和8年(2026年)中に原則課税で1,100万円(税込・標準税率10%)の在庫を一括仕入れした
- 仕入れた日が属する期:令和8年分
- その初日:令和8年1月1日
- そこから3年を経過する日:令和10年12月31日
- その日が属する期:令和10年分
選択肢を奪われるのは令和9年分と令和10年分(2027年分・2028年分)。買った令和8年分とあわせて3年です。3割特例が使えるのがちょうど令和9年分・令和10年分なので、使える2年がまるごと消えます。
何が選べなくなるのか
縛られている期間にできなくなることは、次の3つです。
| できなくなること | 実務でどう効くか | 根拠 |
|---|---|---|
| 売上が1,000万円以下に下がっても、消費税の申告と納付をやめること(免税事業者に戻ること) | 売上が縮んだ期も申告義務が続く | 消費税法12条の4第1項 |
| 売上から概算で計算する方法(簡易課税)に切り替えること | 切り替えに必要な「簡易課税制度選択届出書」の提出自体ができない | 消費税法37条3項3号 |
| 3割特例を使うこと(2割特例も同じでした) | 個人事業者は令和9・10年分の2年を失う | 28年改正法附則51条の3第1項/国税庁インボイスQ&A問115-2 |
3つ目が今回の本題です。国税庁が令和8年(2026年)4月に追加したQ&A(問115-2)は、3割特例を使えない課税期間を8つ挙げていて、その6番目に高額特定資産が入っています。
一般課税で高額特定資産の仕入れ等を行った場合(棚卸資産の調整の適用を受けた場合)において事業者免税点制度の適用が制限される課税期間(消法12の4①②④)
言い換えると、「原則課税で1,000万円以上のものを買ったせいで、消費税の申告をやめられなくなっている期間」という意味です。引用の「一般課税」が、会計ソフトの画面でいう原則課税です。引用の「事業者免税点制度」は、売上1,000万円以下なら消費税を納めなくてよいという仕組みのことです。
3割特例を使うには、2年前の消費税がかかる売上(法律の言葉では「基準期間の課税売上高」)が1,000万円以下であることなどが条件です。前年1〜6月の売上(または給与等の支払額)が1,000万円以下であることも要ります。届出は要らず、確定申告書にその旨を付記して使います。輸出免税の売上も、この1,000万円の判定には含めて数えます。消費税がかからないのは「免税」であって、非課税ではないからです(消費税法9条2項1号、2条1項9号)。海外向けが大半でも、金額が大きければこの入口で外れます。
なお、同じQ&Aは消費税の申告を年1回ではなく1か月ごと・3か月ごとに行う手続きをしている期間(課税期間の短縮)も、3割特例が使えないと挙げています(問115-2の⑧)。輸出の還付を早く受けるために短縮している方は、そもそも3割特例の対象外です。短縮そのものの判断は輸出の消費税還付、年1回のままで資金繰りは大丈夫ですかに書きました。
その期に簡易課税・2割特例で申告していれば、そもそも縛られません
ここが実務でいちばん効くところです。この縛りは、買った期に原則課税だった場合にだけ発動します。
国税庁は「簡易課税制度及び2割特例の適用を受けない課税期間中に高額特定資産の仕入れ等を行った場合」と書いています。つまり、
- その期に簡易課税で申告していた → 縛りは発生しない
- その期に2割特例で申告していた → 縛りは発生しない
- その期に原則課税で申告していた → 縛りが発生する
理由は制度の趣旨から見ると分かりやすくなります。この縛りは、高額なものを原則課税で買って消費税の還付を受けたあと、すぐ免税事業者や簡易課税に戻って売上側の消費税を納めずに済ませる、という組み合わせを止めるためのものです。簡易課税や2割特例は実際に払った額を見ずに売上から計算するので、高額なものを買っても還付は出ません。止める必要がないから、対象外になっています。
裏を返すと、還付を受けた期だけが縛られるということです。
輸出中心の会社は、実はあまり困らない
売上のほとんどが海外向けで消費税がかからない(輸出免税)会社の場合、話が変わります。
こういう会社は毎期還付になるので、そもそも原則課税を選び続けているはずです。縛られて原則課税に固定されても、もともと選ぶつもりだったものを選ばされるだけなので、実害はほとんどありません。
3割特例のほうも同じです。輸出免税の売上には、お客さんから預かる消費税がそもそもありません。その3割で計算しても、納める額はほぼゼロです。ただし3割特例を使うと、仕入れで払った消費税を差し引く計算をしないので、本来受け取れるはずの還付もゼロになります。輸出中心なら原則課税のほうが有利で、3割特例を使う理由がありません。
この縛りが本当に痛いのは、国内向けの売上も相当あって、原則課税と簡易課税・3割特例のどちらが有利か毎年計算しているタイプの事業者です。
輸出中心の会社にも1つだけ関係する場面があります。免税事業者に戻れなくなることです。売上が縮んで2年前の課税売上高が1,000万円以下になっても、縛られている期間は課税事業者のままです。還付を受けたい会社にとって不利ではありませんが、売上が落ちた期に「もう申告しなくていい」と思い込まないでください。 申告義務は続きます。
1,000万円未満なら安心、ではありません ― 開業して間もない人は100万円から
ここまで1,000万円の話をしてきましたが、税抜100万円から効く別の縛りもあります。当たるのは、「課税事業者になります」という届出(課税事業者選択届出書)を出して課税事業者になった人が、その後2年以内に、原則課税で税抜100万円以上の固定資産を買った場合です(消費税法9条7項)。この固定資産が、前に出てきた調整対象固定資産です。
この届出はどの時期でも出せますが、実際に出されるのは開業して間もない時期が多く、まとまった設備投資も開業初年度に集中しがちです。開業1〜2年目がいちばん重なりやすいのはそのためです。
このとき起きることは、1,000万円のときとよく似ています。
- 免税事業者に戻れない(消費税法9条7項)
- 簡易課税を選べない(消費税法37条3項1号)
- 3割特例も使えない(国税庁インボイスQ&A問115-2の⑤)
問115-2は、3割特例を使えない課税期間の5番目にこう書いています。
「課税選択届出書」を提出して課税事業者となった後2年以内に一般課税で調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合において、「消費税課税事業者選択不適用届出書」の提出ができないことにより事業者免税点制度の適用が制限される課税期間(消法9⑦)
同じ買い物でも、人によって結論が逆になります
ここが、この記事でいちばん誤解されそうなところです。100万円以上の固定資産を買った、という事実だけでは結論が決まりません。
| どうやって課税事業者になったか | 100万円以上の固定資産を原則課税で買うと |
|---|---|
| インボイス登録の経過措置だけで登録した(課税事業者選択届出書は出していない) | 100万円の側の縛りには当たりません。3割特例も引き続き使えます。ただしその買い物が税抜1,000万円以上なら、記事前半の縛りに当たります |
| 課税事業者選択届出書を出した | 3年縛りがかかり、3割特例が使えなくなります |
国税庁も同じ問115-2の注3で、はっきり分けています。
免税事業者に係る登録の経過措置(28年改正法附則44④)の適用を受けて適格請求書発行事業者となった者は、「課税選択届出書」の提出をして課税事業者となっていませんので、これに該当することはありません
つまり、同じ日に同じ機械を同じ値段で買っても、片方は3割特例が使えて、片方は使えません。分かれ目は買い物の側ではなく、何年も前に出したかもしれない紙1枚です。
そして正直なところ、自分がどちらなのかを覚えている方はほとんどいません。 インボイス登録のときに何を出したかは、税理士や登録支援を受けた先の控えに残っています。心当たりがなければ、そこから確認してください。
なお、法人には資本金1,000万円以上の新設法人向けに似た規定があります(消費税法12条の2第2項)。ただし3割特例はもともと個人事業者だけの制度なので、法人の場合に効くのは免税事業者に戻れないことと簡易課税を選べないことの2つです。
だから、100万円を超えたら発注前に一声
ここまで仕組みを見てきましたが、実務でお願いしたいのは「税抜100万円以上の買い物は、発注する前に税理士に一言かけてください」の一点です。理由は、ここまでのとおりです。
- 金額の分かれ目が100万円と1,000万円の2本あり、効く相手が違う
- 同じ買い物でも、過去に出した届出によって結論が逆になる
- どれも買ってしまってからでは取り消せません。届出を出して選ぶ制度ではなく、要件に当たれば自動的に適用されます
- 判断に必要な情報(過去の届出、今期の申告方法、来期以降の見込み)は、いずれも税理士の側に揃っています
聞き方は難しくありません。「この金額のものを買おうと思うのですが、消費税の計算方法に影響しますか」で足ります。発注書を出す前の1通のメールで済みます。
よくある誤解
Q. 1,000万円というのは税込みですか、税抜きですか
A. 消費税を除いた金額です。条文は、支払った金額(税込)に110分の100(軽減税率8%のものは108分の100)を掛けた金額、つまり税抜金額で判定すると書いています。条文ではこの支払った金額を「課税仕入れに係る支払対価の額」と呼びます(消費税法施行令25条の5第1項第1号)。標準税率10%なら、税込1,100万円がちょうど分かれ目です。税込1,099万円なら対象外、税込1,100万円なら対象になります。
Q. 1年間の設備投資の合計が1,000万円を超えたら対象ですか
A. 買ってきた資産については、合計ではなく一度の取引のまとまりごとに判定します。年間合計で数えるのは、分けて作らせた場合だけです。
Q. 縛られている間、簡易課税に切り替える方法はありませんか
A. 買った期の初日から3年を経過する日が属する期の初日の前日まで、簡易課税制度選択届出書そのものを提出できません(消費税法37条3項3号)。しかも、買った期の初日から買った日までの間に出していた場合は、その提出はなかったものとみなされます(同条4項)。「期の頭に出してもらってあるから大丈夫」とは思わないでください。
ただし、それより前の期に出していて、買った期がすでに簡易課税で申告する期になっていた場合は別です。その場合はそもそもこの縛りが発動しません(次のQを参照)。
Q. 中古のフォークリフトを10台まとめて1,200万円で買いました。対象ですか
A. それぞれが独立して動く機械であれば、1台あたり120万円なので1,000万円以上には当たりません。ただし1台100万円以上あるので、ひとつ前の章に書いた100万円の側の縛りに当たる可能性があります。まず顧問税理士に「課税事業者選択届出書は出していますか」と確認してください。
Q. 買ったあとで気づきました。どうなりますか
A. 届出や選択の制度ではなく、要件に当たれば自動的に適用されるものなので、後から取り消すことはできません。できるのは、翌期以降の申告方法を間違えないことです。とくに、簡易課税を選んでいるつもりで申告してしまうと、後から原則課税で計算し直すことになります。
発注する前にやること
数えるのは発注前です。買ってしまってからでは選択肢がありません。税抜100万円を超えたら、そこから先は自分で判断しないでください。 以下は自分で数えられるところまでの手順で、最後の1つは税理士に渡すためのものです。
- 一度の発注ごとの税抜金額を出す。 見積書の税抜合計を見る。税込しか書いていなければ110で割って100を掛ける
- その金額が1,000万円以上になりそうなら、それが一組・一式のものか、別々に使えるものかを整理する。 設計図や仕様書の単位で考える。請求書の分け方ではない
- 分けて作らせるもの(内装、システム開発、専用設備)は、その案件の見積総額を通しで足す。 分割発注でも累計で判定される
- 顧問税理士に一言聞く。「今期は原則課税で申告する予定ですか」とだけ聞けば足ります。簡易課税・2割特例・3割特例のいずれかで申告する期なら、この縛りは発生しません
- 原則課税の予定なら、縛られる3期に何が起きるかを試算してから発注時期を決める。 期をまたぐだけで結論が変わることがあります
- 個人事業者で3割特例を使うつもりなら、令和9年分・令和10年分(2027年分・2028年分)の2年が消えることを織り込む。 還付額と、3割特例で浮くはずだった金額を並べて比べる
この記事だけで自己判断しないでください。 ここに書いたのは金額の数え方と、判断に必要な材料がどこにあるかまでです。実際の可否は、過去に出した届出・今期の申告方法・来期以降の売上見込みの組み合わせで決まり、同じ買い物でも人によって結論が変わります。
この記事の数値・制度は執筆時点(2026年9月)に確認したものです。3割特例は令和9年分から実際の適用が始まる制度で、今後Q&Aが追加・改訂される可能性があります。試算はいずれも記事内の前提を置いたものなので、そのまま自分のケースに当てはめず、発注の前に個別にご相談ください。
参考(一次情報)
- タックスアンサー No.6502 高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例/国税庁
- 高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除等の特例/国税庁(確定申告書等作成コーナー)
- インボイス制度に関するQ&A 問115-2「3割特例の適用ができない課税期間」(令和8年4月追加)/国税庁
- インボイス制度に関するQ&A 問115「2割特例の適用ができない課税期間①」/国税庁
- インボイス制度に関する令和8年度税制改正について(令和8年5月改訂)/国税庁
- 令和8年度 税制改正特集(インボイス制度)/国税庁
- 消費税法(第2条第1項第9号、第9条第2項、第12条の4、第37条第3項)/e-Gov法令検索
- 消費税法施行令(第25条の5)/e-Gov法令検索
- 消費税法基本通達 第12章第2節 調整対象固定資産の範囲(12-2-3 一の取引の判定単位)/国税庁
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